ある男の話:手紙 弐
「なぜ、貴様らまでいる?」
使用人の報告から小一時間。
なぜか実物を持ってこなかった使用人を叱り飛ばし、すぐに持ってくるように命じただけのはずだった。
なのに、目の前には普段から見たくもない顔がいくつも並んでいる。
それも本来ならばこの場所にいるべきではない面子。彼の臣下であり、彼の意思で忠実に国家としての暴力装置の機能を全うする者たちである。
「重ねて申し訳ありません、主人様。我らが姫からの一報と聞き、皆が直に拝聴したく馳せ参じたそうです」
彼の質問に対し、なぜか、使用人が答えた。
それが至極当然と言う使用人の態度も癪に触ったが、それを咎めぬ連中にも不信感を覚える。立場を考えれば、それこそ使用人を殴り殺してもおかしくない状況であるのに、なぜか何も起きない。
嫌な雰囲気だった。
しかも、どこか懐かしさを覚えるような。
「値踏みのつもりか?」
「重ねて申し訳ありません、主人様。我らがそんな不敬を働くことなどあり得ませんが?」
わかりやすすぎる嘘だ、と彼は嘆息したくなった。
他の面々は使用人の言葉に反応せず、にやにやと下卑た笑みを浮かべている。その態度は、明らかに彼の疑念を肯定する反応だった。
ようやく、彼は思い出した。
これは、彼が世界を駆け巡った頃。数多の戦場でこいつらと対峙し、麾下に治めるまでの間にあった一幕の再現だ。まだ見ぬ敵がどれほどのものか。何が不敬を働くことはない、だ。こいつらは彼の娘を明らかに敵と見做している。
まぁ、それも無理はないことではあった。
なにせ、彼女は既に反逆者なのだから。
「ふん。我の娘に何を期待しているか知らんが、命乞いの言葉かもしれんぞ?」
「重ねて申し訳ありません、主人様。それは我らの姫君に対して、あまりに不敬です。あの姫君がそのような真似をなさると本気でお考えですか? あの姫君が、ですよ?」
それを父親に言うか。
使用人の期待に満ちた目は、明らかに他の面々の目にも宿っている。そのおぞましさ。よほど戦に飢えてきたのだろう。それも当然だ。既にこの世界は彼の手中にある。不平不満はあれど表立って彼に逆らう者など居ようはずもない。そういう連中を叩き潰し、自身に忠誠を誓わせてきたのだから。
自身の行いに不満はない。目の前の光景も懐かしさを覚える程度には愛着もある。
だからこそ、彼にも使用人を含めた面々の気持ちはわかる。
あの娘が、そんなタマではないことは。
「ふん。いつまで呆けている。はやく読み上げろ」
彼はこれ以上の思考は無駄と判断し、使用人に促した。
使用人はどこか浮ついた手つきで封を開け、中身を取り出した。折り畳まれたそれは、およそ彼の知る娘が出したにしては随分と簡素すぎるものだ。
短刀でも入っているかと疑っていたが、そういった小細工もない。
もしかすると、本当に命乞いの類なのだろうか。
彼は全身から熱が消えるのを感じた。
「…これは」
使用人が中身を読み上げない。珍しく困惑した表情を浮かべ、破いた封筒の中身まで覗き出した。
「何をしている?」
「あ、いえ、その。こちらを」
使用人は逡巡する様子を見せながら、手紙をこちらに向けてきた。
「なんだ、それは?」
そこには、彼が見たことない紋様が描かれていた。
遅くなって申し訳ありませんでした!
今日から再開していきますので、何卒よろしくお願いします!
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