ある男の話:手紙
「数々の無作法申し訳ありません、王よ! どうやらあなたは大望を叶えられたご様子! これまで同様、私の忠義をあなたに捧げましょう! ええ、ええ、ええ。実に喜ばしい!」
先ほどまでの慇懃無礼な態度は消え、どこまで歓喜に満ちた礼賛を惜しみなく叫んでいる。
その男の変貌を、彼はうんざりとした気分で聞いていた。
その言葉、その態度、その歓喜に嘘がないことはわかっている。
けれど、それが二度目となるなら話は別だ。
場所も、時代も、状況も全て変わっていても、同じ反応をされれば、それだけで興醒めである。ましてや、同じ人物なのだから。
「…目が覚めたんなら、とっと失せろ。気分が最悪だ。また燃やしちまうぞ」
「重ねて申し訳ありません、王よ。その命令には従えません」
「…おい、お前」
「主人に異変があれば正すのが使用人が務め。私めを燃やすことであなたが正気に戻ると言うのなら喜んで灰になりましょうともっ!」
「──」
安い挑発だと、彼自身も気づいていた。
けれど、彼の思いとは裏腹に炎の勢いは増していく。輝きが増し、肉の焼ける匂いが充満していく。悲鳴はない。男はどこまでも穏やかな表情を浮かべ、彼を見つめている。
不快だった。
何度も同じ状況に陥ることに対して、彼はほとほとうんざりしていたのだ。
この場で二度目。そして、これまで何度あったっか彼自身がまるで覚えていない。
だから、彼はその怒りを治めることにした。
周囲から炎が消える。
黒焦げた調度品と遺体が一つ。そして、全身に大火傷を負った男が相変わらずの笑みを浮かべて立っていた。
「ふん、これで満足か?」
「はい。それでは、お飲み物でもお持ちしましょう」
小憎らしいほどあっさりと男は態度を改めた。
その背中を忌々しく睨みつけながら、彼はこれからなすべきことを考えていた。
娘が反抗した。
それ自体は別に慣れたものだ。そもそもあれの母親からして気位が高く、異常なまでに負けず嫌いだ。未だに結婚生活が続いていることすら奇跡のようなものである。
政略結婚などと言う無味乾燥なものでも、恋愛結婚という甘い代物でもない。
娘が先に出来たことで結ばれた。
たまたま戦場で出会い、たまたま体を重ね合った。それだけの縁がここまで続くとは思わなかった。そんな由縁のせいなのか、家庭は問題しか起きない。
戦であればどれだけ楽か。敵将の首をとり、兵を屠り、戦場を駆け回る。それこそが彼にとって最も得意なことであるはずなのに。
「あのクソガキめ…!」
子は男が良かった。
そうであれば叩きのめせばいいだけだったはずだ。そして、いつの日か彼は息子に殺される。
弱肉強食。
彼自身が経験した自然の摂理。権力の譲位はあくまで力で以て行うべきなのだから。
なのに、彼は娘に無条件で王位継承権を与えた。
その矛盾が、今の状況を生み出している。
「王よっ!」
薄らぼんやりとしていた彼を叩き起こすように、先ほどの男とはまた別な男が現れた。
またうるさいやつが来た。
彼はさっきの男に対するものとは別の意味で面倒な男なのだ。
品位、礼節。言動や態度の全てに範を求める鉄の男。どうせ、彼の所業を叱りにでも来たのだろうか。
そんな彼の思惑を裏切るように、
「姫様から、手紙が届きましたっ!」
そんなあり得ないことを聞いた。




