やべー女
「勇者ってなんですか?」
またわからない言葉が出てきた。
三太は文七へ視線を送る。おそらくは異世界用語だ。もちろん、三太だって物語における役割としての『勇者』というのは知っている。三太の世界では西洋の物語によく登場する主人公のことだ。魔王や悪党を懲らしめて世界を平和に導く存在。けれど、現実においてそんな存在はあり得ない。
魔王なんて都合のいい悪者はいないし、誰かを殺したからと平和が訪れるなんてこともないのだ。
そんなことは三太みたいな若造にだってわかる道理だ。だからこそ、異世界の専門家である文七の意見を聞きたかった。
文七はすごい表情をして、市村ヨネを見ている。
「…どうなってんだよ、お前の家族」
「本当にね。私は普通の娘として育って欲しかったんだけれど」
呆れ半分、驚愕半分。
三太が文七から読み取れた感情はそこまでだ。何に呆れているのか、何に驚いているのかはわからない。わからないが、よくないことであることだけはわかった。文七の言葉を待つか、それとも三太から質問すべきか思案していると文七がようやく三太の視線に気づいたようだった。
「なんだ? 勇者って言葉を知らねえのか?」
「いや、知ってますけど。え、でも、どういう意味なのかなって」
「意味ってお前、まんまだよ」
「異世界で特別な能力を貰って無敵なおれつえーで好き勝手やってるイキリ女ってことだ」
ひどい言いようである。
三太がそう思ったように市村ヨネも、
「ちょっと、うちの娘はそんなんじゃないわっ!」
そう言って擁護した。
「そうかい。おれの知ってる連中は大抵そういう奴らばっかだったがね。特にこの世界にいる奴ときたら」
「え、この世界にもいるんですか?」
「いるよ。しかもうじゃうじゃな。まぁ、おれみたいな奴も結構いるんで好き勝手出来なくてブチギレてるって話だ」
「ええ…そ、そうなんですか」
三太としてはそうとしか言えない。正直、無敵とか言われてもよくらわからないので無視すると決め込むことにした。
話が脱線している。
とにかく、話を前に進めることだけを意識して三太は会話を続けることにした。
「その勇者っていうのはわかりましたけど、それがどうして継承権と関係あるんですか? 異世界にいるっていっても、その、文七さんならこちらの世界に連れ戻すことはできるんじゃないですか?」
「できるさ。というか、娘の現状を知ってるってことは連絡先を知ってるってことだろ? なら、それを教えてくれれば連れ戻すこともこっちから行くこともできる」
「ダメなの」
文七が具体的な方法を示しても市村ヨネは提案を拒んでいる。
勇者だという理由。
確かに娘に苦難を背負わせるのは嫌だと思うが、それにしてもここまで頭ごなしで言われても到底納得できない。三太ですらそう思うのだから文七だって同じだろうと思う。
その空気を察したのか、市村ヨネはどこか観念した様子で真意を語った。
「私の娘は異世界を救った後、仲間だった王子を無理やり襲って女王になったの。内乱も起こして権力を掌握したんだけれど、情勢がまだまだ安定してなくて。ここで他の世界とはいえ、王位継承権なんてものが出てきたら本当の戦争になるんじゃないかって」
「マジでとんでもねー女じゃねーか」
文七の言葉に三太は同意するしかなかった。
と、同時にそんな女に関わってはいけないと確信した。
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