母離れ出来ないやつ
あなたがそんなことを言うから。
そんな風に責任転嫁をされても困る。というか、返答に見せかけた質問返しではないかと三太は訝しんだ。だからと言って何かを言い返そうにも、正直、この話題の着地点が見えないため何を言えばいいのかまるでわからない。
三太が黙っていると、市村ヨネは真剣な表情から一変し、笑みを浮かべた。
「言ったでしょ、私の全部を上げたからその対価のようなものよ。それに、私は子供が好きなの。あなただってまだ十六歳。母親を知るには遅くないんじゃない?」
「あの、母親を知るってなんですか?」
「あら、あなたお母さんのことを知らないんでしょう? これでも経験豊富だから、いくらでも甘えていいのよ?」
ほら来なさい、と市村ヨネは両腕を広げている。
あまりに会話が続かない状況に、三太は軽い目眩を覚える。けれど、一つ不思議なことがあった。
どうして三太が母親と会ったことがないことを知っているのだろうか。
会話の中で話した覚えはなかった。文七にも話していないし、そもそも母親になると言い出した時点では誰にも話していなかったはずなのに。
「あの、そういうの本当にいいですから」
「む。本気で嫌がることないじゃない」
三太の苛立ちに気づいたのか、市村ヨネは不服そうな顔をしながらも姿勢を改めた。それでもなお不服そうに頬を膨らませる姿はあざとく感じるが、市村ヨネには似合っていた。
見た目はあくまで美少女なのだ。中身は違うが。
三太は心の中で何度も呟いて、瀬菜のように錯乱しないよう自分自身に刻み込む。
「えーと、その、だから、なんていうかですね」
「うん、なに?」
「何が目的なんですかね? 正直、何がしたいのかわからないんです」
文七の方へ視線を向ける。
未だに市村ヨネの膝の上に座ったまま。なぜか何も言わずに目を細めている。その態度があまりに不可解だった。本来なら、この場を仕切るのは文七の役割のはずだ。
まぁ、一番の疑問が母親になりたいという動機なのだから三太が聞いた方が筋が通るのかもしれないが。
それにしたって、発言の一つはして欲しいと三太は思う。三太の視線に気づいているだろうに、文七はそのまま知らんぷりを決め込んでいた、
一体、どういうつもりなんだろうか。
「だから、三太の母親になりたいの」
「いや、それは、だから、わかるんですけど。いや、わかりたくもないんですけど」
頭が痛くなってきた。
どうにも話が通じない人間と会話をするのは難しい。無視や高圧的な態度には慣れていたが思考の方向性と言えばいいのかどういう言葉を選んで投げ掛ければいいのか三太には検討もつかない。
しばらく三太の方が頭を悩ませてから、質問を投げた。
「その、僕が言いたのは別に母親になる必要はないんじゃないんですか? 協力者だったり、最悪妹でもいいじゃないですか」
最後の一言は余計だったが、概ね三太自身の疑問を的確に言えたように思えた。
市村ヨネはなぜか、意外そうな顔をして、
「さんちゃん自身が望んでたんじゃない。私と繋がった時、あなたそう言ったのよ」
そんなまたも三太自身が知らない事実を突きつけてきたのだった、
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