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さよなら


「そ。わかった」


 あっさりと。

 三太の答えに対する反応としてはあまりにも淡白な水月の態度に、三太の方が驚いた。

 てっきり責め立てられると思っていたのに。

 不可解すぎて三太は水月にさっきのやりとりの意趣返しをされたのかと邪推した。

 けれど、長い付き合いで水月がそんな真似をするはずがないと言うことも知っていたし、彼女の雰囲気はしてやったりというような悪意を感じさせないものだった。

 

「なんだよ、それだけ?」


「うん。むしろ、何か言い訳をしたら私が叩っ斬ってたかも」


「──」 


 物騒なことを簡単に言う。

 けれど、それを実現できる実力を彼女は持っている。その上、彼女の言葉には明らかに殺意が乗っているのがわかった。

 

 家族のようなもの。


 それは三太にだけ該当するわけじゃない。三太も含めた全員のことを、彼女は言っているのだ。

 

「忠勝は刀を握れなくなって腹も切れないことを嘆いてた。忠次は武の道を諦めて農家に下宿しに行った。慈恩は飛び出したまま行方知れず。清太は商家の丁稚として働くことになった」


 およそ想像通りだ。

 『御家騒動』ではそれだけの仕打ちをすることになると覚悟を持って臨んでいたのだ。水月の言葉を聞いても三太の心は揺らがない。結果として三太も職を失うこととなったことだけは完全に想定外だったが。

 それだけ、ご当主様は三太を嫌っていたのだろう。

 そもそも掟破りをしたのはあいつらなのに、まさか喧嘩両成敗の結果になるとは。本来ならばあいつらを島流しにでもしてケジメをつけさせるくらいの話なのにと三太は思う。

 

 だから、まぁ、平気だと三太は自分自身に言い聞かす。

 

 それだけ嫌っている父親と五体満足で離れることが出来た。それこそ僥倖。三太にとっては唯一の肉親であるが、あれがそれだけ頭がおかしいということも知ることが出来たことも救いだった。

 だから、そんなクズと過ごす必要がなくなっただけ、あいつらには感謝してもらわねばと三太は自分自身を正当化するためだけの理屈を心の中で反芻した。


「ひどい顔」


「うるさい…っ! 水月には関係ないだろ…っ!」


 流石に三太も限界だった。

 心の中を見透かされるような言動にこれ以上付き合う必要も義理もない。

 水月が去る前に三太は背を向けて、文七達が待つ居間へと向かうことにした。


「もう帰ってよ…っ!」

 

「うん。それじゃ」


 三太は水月の声を背に歩みを進める。広い屋敷とは言え、廊下の長さは高が知れている。あっという間に曲がり角。そのまま水月を無視しようとして、


「誰も三太を恨んでない。だから、またみんなで会おうね」


 三太は一度だけ振り返って、手を振った。

 

 

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