燃え盛る
「あ、おかえりー」
燃えている。
飛び込むように駆けつけた三太の視界には、日中であっても煌々と輝く炎が燃え盛っている。黒ずみと化した柱や今まさに燃やし尽くされようとしている家財があまりに生々しい。
その中心に瀬菜がいた。
燃え盛る炎を身に纏い、太陽のような輝きを放っている。屋敷を燃やす炎よりもなお眩しい様相は、三太が初めてその姿を目にした時から変わらない。だからこそ、火災の中でも平然としているのは不思議とまでは思わなかった。
ただ、この状況を見れば何が起きたのかは明白である。
だからこそ、三太は、
「…何してるんだよ、瀬菜」
声が震えていることにも気づいていたが、躊躇わずにそう言った。
「何って、私が聞きたいわよ。どう説明すればいいかしら」
悩む様子も普段のそれ。
この状況に明らかにそぐわない態度に三太の不信感がさらに増していく。
火消しをしようにも勢いが凄すぎて近づくことすら難しい。三太は呆然と瀬菜を見つめることしかできなかった。
「随分派手にやったな。どこのどいつがやらかしたんだ?」
「! 先生!」
呆然とした三太を押し退けるように、文七が前に出た。
三太が驚いたのはその態度だ。この光景を見て瀬菜と同様に平時と変わらないのは流石と言えばいいのか、わからなくなってしまった。
「侵入者は5人。全員帯刀してました。…ちょっとやりすぎちゃいました」
「怪我はねえな? その5人は逃げたのか?」
「いえ、一人残ってます」
そう言って、瀬菜は誰かを片手で持ち上げた。
炎だった。
全身に炎が燃え盛り、人物の輪郭はぼやけてしまってわからない。それでも人間とわかるのは、その手に刀を持ち続けていたからだ。
動きはない。
三太は死んでいるんじゃないかと思ったが、どうにも違うらしい。
僅かに、声が聞こえたからだ。
「こ…ろ……せ…」
「どうします? こいつら、頭の中見せてくれないですし、このまま焼き殺しますか?」
「やめとけ。そこまでする必要はねえし、やりようはあるさ」
「そですか。わかりました」
そうとだけ言って、瀬菜はその人物を放り投げた。
放物線を描いて地面に激突する人物。未だに炎は燃え続けている。三太はその光景に嫌悪感を抱いた。それ以上に、燃え盛る人物に対して同情を覚える。
ぶつぶつと囁くような声は怨嗟に塗れており、その憎悪の深さに三太は軽いめまいを覚えた。
おそらくは女性だ。
重度の火傷のせいで動くこともできないようだったが、それでも闘志は些かも衰えていないのではないか。
繰り返し、殺してやるなんて言葉を呟き続けるのはその証左だろう。
「ん」
不意に風が吹いた。思わず吹き飛ばされそうになるほどの強風。
三太は土埃から目を守るために瞼を閉じ、両腕で顔を守った。
しばらくの間吹き荒れていたが、これまた突然ぴたりと風は止んだ。
恐る恐る瞼を開けると、
「え」
炎が消えていた。
どころか、屋敷までも元通りになっている。
火災のことなどなにもなかったかのような光景に息を呑み、続いて、燃えていた人物を見て言葉を失った。
やはり女だ。
それも、相当の美人。刀を握りしめ、苦悶の表情を浮かべてはいたがそれでも相当の美人であることがわかる。重度の火傷を負っているかと思ったが、火傷の痕跡すら見当たらない。本人は未だにその事実に気づいていないようだ。
殺してやる、と囁くように呟く姿にはある種の色気すら感じる。
けれど、三太が驚いた理由は別にある。
「水月…?」
それは、燃えていた人物が月夜野家の使用人だったからだ。
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