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決断


「本気?」


 市村ヨネは心底信じられないというような表情を浮かべている。およそ少女が浮かべるべきものではなかったが、中身は数百歳のババアなので問題はないかと三太は思った。


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 流石にここまで関係性が見えてきてはそう思わずにはいられない。おそらくこの場で無関係なのは三太と文七の方なのだ。流石に会話の流れに突っ込まずにはいられなかった。本当ならふざけるな、と怒鳴り散らかして飛び出したかったが、辛うじて踏みとどまった。


 まさか、父が関わっているとは。


 そんな三太の心の叫びは届くはずもなく、橘天は市村ヨネの言葉に一つ頷いた。


「…貴女が同行を拒否した場合に伝えるようにと言い含められました」

 


「生意気になったわね、あのバラガキが」



 なんだよ、その笑顔は。

 三太の我慢が限界を超えた。

 気持ち悪さと憤り。

 三太自身何がこんなに自分自身の感情を見出しているのかはわからない。とにかく、この場から立ち去りたくて仕方がなくなった。鏑木が刀を取り上げたのは間違いなく英断だった。

 そうでなければ、三太は躊躇いなく刀を振るい、この場を台無しにしていたはずだ。

 だから、


「けれど、ごめんなさい。残念だけれど、そのお誘いは断らせていただくわ」


 続く言葉に、逆に、三太は驚いた。


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「私には彼がいるから」


 市村ヨネはそこで三太を見た。

 三太はただその視線を受け止めた。なぜか目を離せない。おそらくは初めての経験だったからかもしれない。

 

 そう、初めてだったのだ。父ではなく三太を選んでもらったのは。

 

 その事実が、三太自身の熱を全く別物に変えた。

 

「…そうですか。なら、そのまま朽ち果ててください」


 あっさりと、橘天は市村ヨネから離れた。

 普段通りの声音と態度。

 どうやら本気で市村ヨネから関心を失ったらしい。自然な動作で背を向けると鏑木に自身の刀を返すよう要求した。鏑木は少しの間思案したようだが、そのまま返した。

 当然だ、橘天からは闘志や殺意の類はまるで感じられない。

 そもそも話し合いは終わったのだ。これ以上争う理由もなければ、橘天自身がこの場に留まる理由もない。

 なにより、橘天自身が話し合いの終わりを告げたのだ。これ以上は何もない。

 

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「──しっ」


 銀閃が走る。

 おそらくは、橘天にとっての渾身の一撃だった。

 鏑木から刀を受け取ったと同時に踏み込んだ。

 背中を見せたのも言動も挙動も全てが室内にいる者を欺くためのもの。

 

 そう、彼女をよく知らない人間ならば騙されたのかもしれない。

 

「やらせないよ」

 

 三太は橘天に背中から抱きついた。

 橘天が背中を向けたまま市村ヨネに向かって飛び込んできたところを抱きとめ、刀を振るう前に押し倒したのだ。抜き身の刀で怪我をする恐れもあったが、上手くいったようだ。

 そのまま抵抗を始めた橘天を無理やり押さえつけ、三太は言った。


「父さんに伝えろ。余計な真似するなってなっ!」


 三太自身が驚くほどの声量だった。

 けれど、これで三太は自分自身がすべきことがはっきりした瞬間だった。



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