仲間はずれ
「気に食わねえな」
ぼそり、と文七が呟いた。
武器を奪われた時点で三太に出来ることはそうない。というか、敵対している相手も同じ状況なのだから戦闘行為が起きる危険性はもうないのだ。だからこそ、ここからは対話と交渉の時間である。三太は全身の警戒を解いて、場の展開を見逃すまいと耳を皿にすることにした。
「…私に言ったのですか、猫さん」
「そうさ、お嬢ちゃん。名代ってのはわかるが、どうも上から目線でいけねえな。それじゃ、男も逃げ出しちまうんじゃねえか?」
「………何を言っているのかわかりませんね」
文七の言葉に対しても相変わらず橘天は無表情を崩さない。
それでも、役者の違いを理解するには十分まやり取りだった。
当然分があるのは文七の方だ。
そういう意味では三太にとって安心感はある。あるが、問題は文七のこの場における立ち位置だ。
文七はこの件には関わり合いたくないという立場。それはここに来るまでの話し合いの中でも変わっていなかった。
だからこそ、三太は耳を皿にして会話の流れを読み取ろうとしているのだ。
もちろん、そんな真似が得意なわけがない。ないが、そうしなければならない状況であるというのは肌で感じとることは出来た。それこそ、月夜野家にいた頃はいつだってそうしてきた。
その結果が『御家騒動』だったが。
「子供をいじめるのは感心しないな。相変わらず弱いものいじめが好きなのか?」
「はん。好きじゃねえからとっとと終わらしてんだ。お前こそガキの尻を追いかける癖はどうにかなんねえのか? そんなんだから嫁さんに愛想尽かされちまうんだぜ」
「ははは、余計なお世話だ」
三太には無意味な会話にしか思えないが、文七と鏑木の関係性の一端が見えた気がする。
お互いの過去をよく知る仲。前回のやりとりでは仕事上の付き合いのみだと三太は思っていたが、どうやら違ったらしい。
ふと、そこで三太は気づいた。会話の中から見える関係性。それを意識するなら、もっと重大なやりとりがあったじゃないか。
「あらあら。『鏑木の坊ちゃん』はいつまで経っても子供なのね。中年男が家族を大事にしないなんて、ゴミクズ以下じゃない」
鏑木の坊ちゃん。
市村ヨネはなぜかにやにやとした笑みを浮かべながら、鏑木をからかうように罵倒した。鏑木は苦笑を浮かべ、なぜか反論しない。この関係性については、正直三太にもよくわからない。
仲は悪いのだろう。ただ、不思議と市村ヨネは嬉しそうにも見えた。鏑木の方は明らかに苦手そうな雰囲気を見せていたが。
「未だに私をそう呼ぶのはあなたぐらいでしょうね。うん、旧知の中です。私の言う事に従ってくれませんかね、アナスタシア姉様」
またも謎の関係性が見えてしまう。
知りたくもなかったが知らなければ状況に流されるだけである。ことここに至って、三太はようやく理解した。
三太と橘天は完全な部外者である。
三太はそっと横目で橘天の様子を見た。無表情。けれど、立ち姿があまりに寂しげだった。
そう言えば、他の使用人に仲間はずれにされていた時もあんな感じだったな、と三太はどうでもいいことを思う。それがこの場においての同族意識であることは当然理解している。
とりあえず、刀を返してくれないだろうかと三太は思った。
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