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鼻を明かす


「良いわけねえだろうが!」

 

 どごんと鈍い音と軽い震動が同時に走った。

 文七が煙管を畳の床に叩きつけたのだ。見事に抉り千切られた様子に文七の本気が現れている。三太は文七に向き直った。


「いいか、とにかく王位継承権はあんたの身内に渡す。あんた自身については身の危険もあるからおれが異界に飛ばす。それで終いだ。三太、お前もそれで納得しろ」


「嫌です」


「この野郎…っ!」

 

 いくら凄まれようとも三太は意見を翻す気はなかった。

 それだけ三太にとっては見逃し難い事情があるのだ。なにせ、無理やり取り上げられた勝負の再現が起きているのだ。ここを逃す気はなかったし、何より文七のような対処を行った場合の危険性もよく理解していたからだ。


「何度も言いますが、ああいう輩はしつこいんです。ぼくたちもとっくに標的にされているはずです。なら、迎え撃った方がはやいじゃないですか」


「それもお前さんの勝手な予想じゃねえか。いいか、おれは確かに強えし、お前さんの刀も中々だ。けどな、王位継承権なんて代物が出た時点で本職の連中が出張るに決まってんじゃねえか。そうだな、お姫様よ?」


 文七は市村ヨネに問いかけた。


「そうね。使用人だけじゃなく騎士達も出てくるでしょうね」


「そんなもんに対抗するなんざいくらなんでも無理だ。こちとら四人だぞ? 全滅するに決まってんだろ」


「でも、軍隊が丸々くるわけじゃないでしょうし。その騎士っていうのがどれだけ強いのかはわかりませんが、市村さんなら」


「さんちゃんっ!」


「え、はい?」


 何故か市村ヨネは三太の言葉を遮った。三太が驚いていると、市村ヨネは真剣な顔で言った。


「ヨネ、って呼んで?」


 お母さんじゃないんですね。

 三太はそんなどうでもいい感想が浮かんだがそれ以上に市村ヨネの発言自体がどうでも良かったので無視して話をすることにした。


「とにかく、情報をください。戦い方や文化、暮らし、騎士という存在についての概要でも結構です。おそらく身内の方が来るでしょうから思い当たる方についてもお願いします」


「おい、三太。お前、俺の話を」


「戦うにしろ文七さんのいう通りにするにしろ、情報は必要です。そもそも交渉になるかもわからないんですから。大丈夫ですよ、僕は戦いたくてうずうずしているんじゃないんです。あくまで自衛のためです。もちろん、鼻を明かせるなら明かしたいですけれどね」

 

 三太の言葉に文七は渋い顔をした。したが、結局、三太を否定する言葉を吐くことはなかった。

 

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