三太の理由
「その通りよ、さっすがさんちゃん!」
三太は何故か市村ヨネに抱きつかれた。
膝枕とはまた違う柔らかさに、一瞬だけ硬直する。けれど、すぐに彼女を押し返した。
今はそんなことをしている場合じゃないのだ。
「あん、いけずぅ」
「こんのクソババア…っ!」
瀬菜がこれまで見たこともないくらい輝いている。まるで太陽のような熱量を感じたが、三太はこれを無視を決め込むことにした。
「とにかく情報をいただけませんか? 戦う相手のことを知らなければどうにもなりませんし」
「ちょっと待った」
文七は三太の言葉を遮った。
先ほどまでの怒気はいくらか弱まっているようである。けれども、それ以上の鋭さが眼光には込められていた。
「やる気十分なのはいいが、まだ聞いていねえことがあるぜ? 返せないって言ったな? なら、こいつから他のやつに渡すことは出来るんじゃねえのか?」
「ええ。それは可能だわ。例えば、猫の貴方だったり、輝いているお嬢さんだったり」
「私の娘にも当然可能ね」
ぴしり、と空気が凍る。
一瞬で状況が変わったことを三太ですら理解した。おそらく文七と瀬菜は市村ヨネを排除する。市村ヨネはどう動くだろう。逃げるか、防ぐか。どっちが勝つかは三太にはまるで予想出来ないが、とにかくこの話し合いがご破産になることだけは予想できた。
けれど、それはだめだと三太は思った。
「すいません、文七さん。僕はそんな真似をするつもりはないですよ」
「…なんだと?」
「おれ、嫌いなんですよ。家の都合を傘に着て上から目線で強制する奴」
「あー。おいおいおいおい、そこかよ、おい」
文七は天を仰いだ。
猫の姿でも十分に人間臭い仕草だと三太は思った。
三太の言葉を文七は正確に理解してくれたようだ。三太自身は家庭事情を詳しく話したことはないが、それでもいくらか耳には入っていたのだろう。月夜野家の親不孝者。役場で働く友人の三喜夫ですらその噂の一端は聞き齧っていたはずだ。
だからこそ、三太に父親との和解を求めたのだ。
クソくらえだ、と三太は今更ながら思った。
「こういう輩には徹底的にやるしかない。正攻法だろうと裏技だろうとやりようはいくらでもあるはずです。相手が根を上げたらこっちの勝ち。そうじゃなければこっちが根絶やしにされる。白黒はっきりしていていいじゃないですか」
そう、これが三太が父親から引導を渡されたもう一つの理由。
身内全員から標的にされながらも最後まで抵抗し続け、父親に手打ちをせざる負えない状況まで持っていった三太の手法。
最後の最後でご破産になってしまった戦の続きがここにあるのだと三太は確信したのだ。
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