母である理由
「で、だ。結局、あの球体はなんだったんだ? どうもあんたの身内みてえだったが」
場の険悪な雰囲気に飲まれ、三太の胃が破裂する前に。文七は三太が一番聞きたかったことを市村ヨネにぶつけた。
瀬菜の視線もようやく三太から離れ、ふっと気分が楽になる。それを誰にも悟られないよう、三太は市村ヨネへと視線を向ける。もちろん、渋々ではあるが膝枕を離れ、姿勢を正した。
「あれは、父の使用人よ。ここ数十年姿を見せていなかったのだけれど、まさか監視しているなんて」
「監視ねえ。父親なら娘の様子の一つも気になるもんなんじゃねえのかい?」
「ふん。そんなまともな関係じゃないわ。私、殺されかけたのよ?」
「それだ。あんたの財産とやらをこいつにやったことが原因なんだろ? 一体、こいつになにをくれてやったんだ?」
いつの間にキセルを取り出した文七は芝居がかった調子で三太をさした。
「よっぽどのもんなんだろ? 何十年経っても心配していたバカ親父が家出娘を気が狂って殺しかけるくらいにはな」
「……」
沈黙。
これまで澱みなく答えていた市村ヨネは探るような表情を浮かべて文七を見ている。場の雰囲気が変わっている。張り詰めた空気に思わず三太は息を呑んだ。
三太自身気にはなっていた。
あの時の宣言の内容は覚えているが自分が何を渡されたかのかがわかっていない。そもそも、母親を名乗られる理由自体がわからなかったが、もしかするとこのことに関係があるのかもしれない。
だから、
「あの、僕も気になります」
三太自身から聞く必要があると思ったのだ。
質問と同時に室内の視線全てが三太を突き刺して来た。
一瞬気後れしそうになったが、それでも市村ヨネを見つめ続けた。市村ヨネは驚いたような表情を浮かべていたが、何故か表情を和らげた。その雰囲気が妙に優しげで、三太はまた違和感を覚えた。
「そうね。さんちゃんには話しておかなければならないわね。貴方には私の家と私の土地、この世界の貨幣、家財、家宝」
「そして、私の王位継承権も貴方に譲位させて頂きました」
王位継承権?
三太は訳がわからず文七を見て、後悔した。
文七の表情が、
「そこまでてめえの子供が大事か…っ!」
まるで猛獣のように表情と溢れんばかりの怒気。これまで見た怒りの感情がちっぽけに見えるほどの迫力に言葉を失ってしまった。
それを直接叩きつけられたはずの市村ヨネは、
「ええ。だから、私は母になることにしたんです」
何故か誇らしげに、また訳のわからないことを言った。
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