この子にはまだ早い!
「なに言ってんだい、お前さん? とりあえず、落ち着こう? な?」
あまりの事態に文七も困惑したらしい。
明らかに常軌を逸した言動を本気で心配する目で少女を見つめている。ついでに拘束も解けたので三太はそっと距離をとった。
「あんたこそ全裸で何言ってんの! 服を着なさい、服を!」
その通りだと三太は思った。
ついでに上着を脱いで、そっと全裸の文七にかける。と、同時に三太は震え上がった。文七の眼光にはそれだけの力があったのだ。
横目で三太を睨みつけている。いや、なんでそんなおっかないんですかと三太は心の中で叫んだ。
けれど、それも一瞬だった。
「そりゃそうだ。すまんな、俺も舞い上がっちまってた」
瞬きの間に、文七は姿を変えた。
全裸の美女から和服を着こなす猫に。
何が起こったのかわからない内に健全な状況に切り替わってしまった。
「それでいいのよ。全く、貴方恥らいって言葉を知っているかしら」
「はは。こう見えて俺もここは長くてね、その程度のことはわかるつもりさ」
「ふん、悪いけれどさんちゃんから離れてくれる? 貴方みたいな人と付き合わせたくはないの」
「さんちゃん?」
「いや、あの、しりません。本当です…っ!」
文七の静かな物言いに三太は全力で無罪を主張した。
視線も表情もこれまで見てきた文七と変わりない。というか、猫の姿に戻ったのだから迫力もくそもないはずなのに、三太はこれまで感じたことのないほどの殺気を叩きつけられたからだ。
「ちょっと! やめてよねっ! そういうのをはこの子には早いっていってるでしょ!」
直後、三太は膝から崩れ落ちた。
文字通りの意味である。
仮にも武道を修めている身の上だったが、まるで子供か案山子のように体を崩されてしまった。それを成したのは年齢不詳ながらまさしく子供にしか見えない少女の手によってである。
しかも、三太の後頭部にはこれまで感じたことのない柔らかい感触があった。
膝枕。
三太の視界で、少女が慈愛の笑みを浮かべている。
「怖かったでしょ? 安心していいわよ。私が貴方を守るから」
「え、あ、その、えぇ…?」
「ふざけるのもいい加減にしろよ、おいっ!」
「それは貴方の方です。さんちゃんは私の可愛い赤ちゃんなんですから!」
流石に三太は全力でドン引きした。その上、動けない自分にさらにドン引きした。
慈愛の笑み。
見下ろす少女の表情があまりに曇りなさすぎて、ただただ三太は圧倒されるしかなかったのだ。
その上、後頭部の感触よりもこの状況自体が未経験で対処できそうにもなかった。
そう、三太は膝枕をされたこともないのだ。
そもそも、抱きしめられたこと自体が少なすぎた。
三太はその未知の感覚とわけのわからない状況に、ただただ呆然とするしかなかったのだった。
文章のおかしいところを訂正しました。




