お母さん許しませんよっ!
「やかましい」
ぐしゃり。
金属音というには妙に生々しい音を立てて、歪な球体は沈黙した。躊躇いのない一撃。文七は繰り返し踵を振り落として、それ以上の反応がないことを確認した。
そのあまりの容赦のなさに、三太はドン引きした。
「はん、耳が腐る」
「いや、あの、よかったんですか?」
「いいさ。どうせ碌なことをしゃべんねえだろうからな」
文七の一貫した態度に三太はそれ以上何も言えなくなってしまう。
文七はもはや球体というかガラクタに成り果てた物体を一瞥した後、三太を見た。
見たというか凝視してきた。
凝視してきた上に、なぜか一気に間合いをつめられた。
「え、ちょっ、なにを…っ?」
「こら、逃さねえぞ」
がっしりとしがみ付かれる。
三太はなんとか振り解こうとしたが腕力が違いすぎた。びくりとも動かない。その上、触れ合いそうなほどの距離から凝視され、三太自身が動けなくなってしまった。
あれだ、蛇に睨まれた蛙だ。
三太は慣用句を思い出すと同時に、気恥ずかしさが勝って目を逸らした。まずい。自覚できるほど鼓動が激しくなっている。
当然抱きしめている文七の方にもバレているわけで、
「ん? どうしたよ、なに慌ててんだ? んー?」
にやにやとした笑みを向けられながら、三太はただ硬直するしかなかった。柔らかい。巨大でふにふにの物体が押し付けられ、その感覚を懸命に意識しないようにすることだけに必死だったのだ。
その反応すらも文七にはバレている。
「いや、その、ですね、あの」
「照れることはねえだろ? お前が斬ったからこうなったんじゃねえか」
「俺が素っ裸のままってのはそういうことだろ?」
にんまりとした美女の笑顔が視界の端に張り付いている。眼光が強すぎる。しかもいい匂いまでしてきたのだから、三太にはたまらない。いや、確かにこの状況は三太の一振りで起きたことだ。三太自身もそれを理解している。けれど、不思議なことに三太自身には文七の姿をこの状態のままにしておくつもりはなかったのだ。
むしろ、猫の姿に戻すようにしたはずなのに。
「こらぁあああああああっ!」
怒号。
いや、そういうにはあまりに声が可愛らしすぎた。
反射的に声の方へ視線を向ける。
そこに、
「やらしいことは禁止! そういうのはまだ早い!」
なぜか腰に手を当ててぷんぷんと怒っている少女――市村ヨネがいた。
「お母さんは許しませんよっ!」
どうやら、寝ぼけているらしい。
三太は現在進行形で混迷する状況に天を仰ぎたくなった。
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