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抜刀

 

 あまりにあっけらかんとした文七の物言いに三太は耳を疑った。

 どうしようも出来ない。

 こんなわけがわからないところに連れてきたくせに、最後は投げっぱなしなんて話があるだろうか。

 三太は自分自身の聞き間違いか、読解力のなさが原因で理解できていないだけなんじゃないかと思い、再度、文七へ問い返した。


「あの、どうしようもないって、それってどう意味ですか?」


「言ったまんまだよ。おれはこの世界を使うことは出来ても使いこなすことは出来ねえ。そもそもおれは神様の類じゃないんでね。天気を操ることなんて出来やしねえし、出来るのはここに連れてくることだけなのさ」


 いくらなんでも無責任すぎやしないだろうか。

 三太ですらドン引きするようなことを文七は悪びれることなく言う。その言葉の通りであれば、もしかすれば、三太自身もあの球体のようになっていたかもしれないということだ。さすがに自爆はしないだろうが。

 

「それじゃ、もし、元に戻ったら」


「オレとお前は戻れるさ。でも、あの球体の残骸と市村ヨネは無理だ。どこにいるのかもわからねえしな」


 またまたしれっと、文七は悪びれもなく言う。

 文七に市村ヨネを助ける気は毛頭ないと三太はようやく理解した。というか、少し考えればわかることだった。

 そもそも文七と三太は立ち退きのためにここに来たのだ。

 そりゃあ、強引に追い出す真似をするつもりはなかったとは思う。なかったが、事ここに至っては文七が市村ヨネを見捨てることの方が合理的に正しいのだ。


 なにせ、文七が何もしなくても勝手にいなくなってくれたのだから。


 それをわざわざ助ける理由もない。

 なにより文七の言葉を借りるならば、どうしようないのだ。当然出来ることと出来ないことはある。

 三太の訴えたいことはある種綺麗事である。

 助けるべき人がいれば助ける。

 それ自体は三太自身も重々自覚していた。


「探さないんですか?」


「どうやって? 正直おれはお前さんより目はいい自信があるし、さっきはああ言ったがこの世界のことならある程度わかる。そのおれがわからねえんだぞ? 万にひとつも見つかる可能性はない」


 明確な否定。

 三太は問いかけの返答の内容まで予想していたので特に衝撃を受けなかった。やはり、文七に救うつもりはない。

 これは、あくまで確認作業のひとつだ。

 ここで文七が何某かの手段を取ろうとするならば助力を求めようと考えていたが、当然それは期待できない。


 だから、三太は覚悟を決めた。


「あの文七さん。先に謝っておきます」


「あ?」



「僕、見捨てるの嫌なんです」



 そっと柄に手をかける。

 鯉口を切り、足場のない状況ながら普段の体勢に近い感覚へと持っていく。

 あとはいつも通りにするだけだ。


 三太は無心のまま刀を抜いた。


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