鼓動
「ここはオレの元いた世界だ。今じゃなにもねえ。この空も、海も、大地も。かつてあった世界の名残。オレだけが使うことを許された特権みたいなもんさ」
見渡す限り何もない。遥か彼方まで広がる風景に三太はただただ圧倒されていた。
オレの元いた世界。かつてあった世界の名残。
文七の言葉に三太はどこか物寂しげな印象を受けた。
その寂しさの意味を考えようとして、やめた。おそらくは三太には理解できないことだったし、なにより、そんなことよりも考えるべきことが山ほどあったからだ。
そもそもこの状況はなんなのか。
あまりに非現実すぎる上に目の前の情報量の多さに思考が麻痺してしまっている。三太は自分でも驚くほど冷静だった。というか、もう自分ではどうにもならない状況と察して全てがどうでもよくなっていた。
なるようになれ。本人ですら気づいていない三太にとっての処世術である。
「…もう、細かいことを聞くのはやめます。とにかく、これで大丈夫ってことなんですよね」
「ああ。ようやく音を上げたらしい」
「え?」
文七の言葉に、三太が問い返した直後。
どこかで、ほんの微かに。本当になぜ聞き取れたのかわからないほど微かな音が聞こえた。不思議なのは、微かなはずなのに、それがなんの音なのか、三太にはすぐわかったことだ。
おそらくは爆発。
視線を向けても澄み渡る青が広がっているだけ。爆発の痕跡ひとつ見当たらない。
「い、今のは…」
「不思議なもんでな。落ち続けるってのはどうにも心にクんのさ。あの目ん玉みたいなのもの堪えきれなかったってだけの話だ」
目ん玉。おそらくは球体のことを言っているのだろう。
堪えきれなかったと言う言葉に三太は妙に納得してしまった。さっきまでの感覚を思い出す。稽古で受ける堪え難い苦痛とはまるで違う、終わりのない不安感。肉体ではなく精神を塗り替えるような絶望感は、なるほど、確かに堪え難い。それこそ、自分自身を消し去りたい感情に襲われるのも納得がいく。
だからこその自爆。
結局、あの球体が何をしたいのかもよくわからないまま全てが終わってしまったのだ。
「その、なんですか。結局どういうことだったんですかね?」
「オレに聞くなよ。正直わけわかんねえが、売られた喧嘩は買うしかねえだろ? 大体、あのままだったらオレら全員黒焦げだったぜ」
それでもいいのかよ、と文七は不敵な笑みを浮かべた。
良いわけがない。そもそも、三太に文七を攻める気は毛頭ないのだ。むしろ命を救ってくれてありがとうと礼を言わなければならないはずだ。
まぁ、救えなかった命もあるわけなのだが。
そんなことを考えた直後。
「え」
三太はどくん、と誰かの鼓動を感じてしまった。
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