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私の全部をあげる 弍


『何を言っているのですか、お嬢様』


 球体の言葉は三太やおそらくは文七にとっても疑問だった。

 

 というか、お嬢様?


 三太は球体の言葉が妙に引っかかったがそれを指摘する間もなく、


「私は本気よ。もううんざりなの、どこかでふんぞりかえったおっさんの思惑通りに動くなんて絶対に嫌…っ! だから、私は私の思い通りにやるわ…っ!」


 何故か、少女の熱量だけが増していく。何に対してかはわからないが妙に熱くなっているようである。そのせいなのか、なんなのかはわからないが、三太はものすごく嫌な予感しかしなかった。

 というか、そもそも全財産とか渡されても困る。

 三太は当事者なのに置いてけぼりの状況に不安を感じ、なんとか断ろうとしたが、


「少年!」


「はい!」


 少年っ?

 

 三太はもうどこから突っ込めばいいのかもよくわからなかったが、もうなんか勢いで返事してしまった。否定するはずが呼びかけに応じてしまったのだ。


 その結果がこれである。


「我が名は市村ヨネ・エクスタシア! 百八年前、我が祖国オラリアスより迷い来た者。スケサブロウを愛し、我が娘シズカ・フォルトゥーナを育て上げた。我が血肉、我が財産、我が全てを御身へと捧げ奉る」


 ──瞬間、三太の視界が真っ白に染まった。

 

 声が出ない。体が動かない。何も聞こえない。


 何が起きたのか思考するが何もわからない。ただ真白い光景だけが意識を染め上げていく。その中で一点。ただ白いだけだと思った空間に見えた()()()いた。


 子供、それも男の子 / 女の子だろうか。


 ただまっすぐに三太を見つめる視線はどこか責めているようにも見えて、どうしてそんな目をしているのか気になった。


 だから、それが誰なのか気になって、目を凝らそうとして、


「しっかりしろ三太ぁっ!」


 そんな馬鹿でかい声で三太は正気に戻った。


「は?」


 何が起きたのか。

 

 三太にはまるでわからなかった。一瞬の空白。けれど、目の前の光景は三太自身の理解を超えていた。


「……なんだよ、これ」


 シャンデリアがない。というか、屋根がない。空が見える。けれど、それだけじゃなかった。


 三太が屋敷に入る前には青空が広がっていたはずなのに赤黒い雲が全天を覆っている。さっきまであったはずの屋敷の風景が消え、果ての見えない乾いた荒野が広がっている。頬に当たる風は乾き、砂塵が時折巻き上がっている。

 その只中に、三太はいた。

 傍には動かない少女。市村ヨネと名乗りを上げた彼女は全身が赤く染まって、赤い液体の中に浮かんでいた。

 

「──どうなってんだよ、これは!」


 三太の怒声は誰にも届かない。

 

 文七にも、球体にも、少女にも。

 

 三太はただただ、目の前の光景を飲み込むので精一杯だった。

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