私の全部をあげる
殺す。
球体が零した言葉に、三太はため息を吐きたくなった。いくらなんでも怪しすぎる。ここまであからさまに線引きをされて、どうしてこちらが引くと思っているのだろうか。脅しであっても、本気であっても何かがあるのは間違いない。なら踏み込まないわけにはいかないんじゃないだろうか。三太はどうやって追及しようかと考え、
「おいおい、随分物騒だな。初対面で切った張ったするなんざ、いくらなんでも野蛮すぎると思うぜ」
やめることにした。
三太が文七に視線を向けると、一度だけ目を合わせてから再度球体の方へ向き直った。意味ありげな視線を推測するに、ここからは文七がやるということだろう。その事実だけで、三太は肩の荷が降りる思いだった。
ほぼ何もしていないがこんなやりとりは初めてすぎて妙に緊張してしまったんだろう。今回は引き際もまちがえていないようだし、うまくやれたんじゃなかろうか。
『残念ながら、それだけ当方にとっては重要な事柄でして。これ以上の詮索は明確な敵対行為と見做し、処理をするよう指示が出ております』
「ん? お前さんだけが見てるんじゃないのかい?」
『もちろん。私などに決定権はありません。』
「なら責任者に繋いでくれよ。見てるんなら挨拶の一つでもするもんじゃないのか?」
『──重ねて謝罪を。ご当主様はご多忙でして、この場に参加することは叶いません』
流石の文七も渋い表情を浮かべている。
ここまで対話を拒絶されてはどうしようもない。今になって、三喜夫が三太の謝罪癖を指摘した理由がわかった。謝罪されると会話の流れが強制的に切れて、それ以上話が進まなくなるのだ。
いくつか気になる点はある。けれど、そこからどうやって切り込んでいけばいいのか。
三太は文七の出方を聞き逃すまいと耳をすませて、
「──そう、パパが見てるんだ。いえ、見てたんだ、ずっと」
背筋が凍るような声を聞いた。
鬼の形相。
これまでの殺気立っていた様相がさらにひどくなった。丸い球体を見つめる視線に、流石の文七も言葉を失っている。球体ですら沈黙し、室内の雰囲気は不気味な静寂に包まれた。
もう、潮時じゃないだろうか。
あまりの緊張感に三太は根を上げたくなった。沈黙に重さをあるなんて比喩表現はよく見るが、実際に経験してみるとあまりにも酷すぎる。おそらくはこれ以上話が進むことはないだろうから、このまま退散した方が得策なんじゃなかろうか。
三太はそう結論付け、文七を見る。意外なことに文七も三太を見ていた。
文七が頷いたのを見て、三太はこの重圧を跳ね返そうと全身に喝を入れて、
「いいわ…ッ! なら、私にだって考えがあるから…ッ!ねえ、そこの貴方!」
突然、少女が三太を指さしてきた。
虚を突かれ、三太は返事も出来ない。ただ少女を見つめていたら、
「あなたに私の財産を全て譲渡します。もちろん、この屋敷と土地も含めて」
そんなわけのわからないことを言い出した。
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