謝罪
『まずは、突然の非礼申し訳ありせん。楽しいご歓談中かと思いますが、これ以上の対話はお互いの立場というものがありますので何卒ご遠慮願えないでしょうか?』
妙に堅苦しい上にどこか空々しい言葉だらけすぎて、三太は一瞬何を言われているのかまるで理解できなかった。
というよりも、
「誰だい、お前さん? いつから盗み聞きしてたんだい?」
『重ねて謝罪申し上げます。私個人としては品性の欠片もない下衆同然の行為だということを重々承知しているのですが、これも職務ですので』
こいつはなんだ?
三太と文七の視線の先で丸い球体が宙に浮かんでいる。
そう、丸い球体としか言いようがない。材質はおそらくは金属製。中心部に丸いガラスが埋め込まれていて、三太と文七が写っている。
『さらに重ねて謝罪を。直接の対話ではなく、このような状況での対話であるのは個人的な理由と物理的な理由の二つがあります。ただし、どちらも貴方方にお伝えすることは出来ません』
「…ふぅん。だとよ、三太。お前さんから言うことはあるか?」
「え」
なんでおれと三太は文七を見たが、文七は素知らぬ顔をしている。多分、相手の反応を観察するつもりなんだろうと三太は推測する。同時に、それは判断を間違えてるんじゃないかと文七に言いたくなった。
正直、三太は何を聞けばいいのかまるでわからなかった。余計なことをする時はすらすらと言葉が出るくせに、こう言う時にはまるで舌先が動かないものなのだ。
心なしか、丸い球体から注目を浴びている気がする。三太は渋々、適当な話題を出すことにした。
「あの、はじめまして」
『重ねて謝罪を』
「え」
いや、何回目の謝罪?
口調がどうにも硬すぎて気づかなかったが、なんだろう、この球体(?)は何にでも謝罪を口にするんだろうか。三太はなんとなく親近感に近いものを抱いた。学生のころ、三太も同じように謝罪ばかり口にしていた。三喜夫に指摘されてから直ったが、そういう風になってしまう理由なんかも想像してしまうのだった。
『自己紹介せずに自己主張だけを通そうなどと恥知らずな真似をして申し訳ありません。ですが、それもこれも職務上の理由ですのでご容赦を』
「あ、いえ、その。大丈夫です、別に気になりませんし。あー、その、こっちも自己紹介をしてませんから」
『寛大な御心遣い感謝いたします』
今度は感謝されてしまった。
どうにも会話の流れが掴みにくい。見た目のせいもあるのだが、言葉の端々に会話を続ける意志があまりないように三太は感じていた。というか、そもそも会話の流れを切るために横槍を入れたと自白しているのだ。なら、敢えて話の流れを戻すべきだろうか。
三太はそう思って、少女の方へ視線を向け、
「──どういうつもりかしら…ッ!」
思わず、視線を逸らした。
怖い。
純粋に迫力が違う。親の仇でも睨むような視線と形相と言えばいいのか。少なくとも少女がしていい顔じゃないし、ここまで感情が込められた表情を、三太は見たことがなった。どうでもいいが、少女はいまだに文七の手を両手で握ったままだった。
そんな殺意に対しても球体は素知らぬ顔(?)で、
『あなたこそどういうつもりです? 事と次第によっては彼らを殺すことになるんですよ?』
そんことを言った。
読んでいただきありがとうございます!
新たにブックマークしてくださった2名の方、本当にありがとうございます。
明日も投稿予定ですので、今後ともよろしくお願いします!




