異界送り
「ごめんなさい。あなたが何を言っているのか、よくわからないわ」
文七の言葉に少女は困惑しているようだった。
三太も勿論困惑している。というか、こんな無茶苦茶な話をはじめて聞かされて驚かない方がおかしいんじゃないだろうか。
移動。
単純に考えれば引越しのことなんだろうが、それは少女は当然拒否している。文七もさっきまで同意していたはずだ。いや、あれだろうか。同意したと見せかけて強制的に排除する宣言なのだろうか。
そんな矛盾した展開に、三太と少女は困惑しているのである。
二人の視線を受けながら、文七は澄ました顔でコーヒーを啜る。
「別に難しい話じゃない。あんたは今まで通りの生活をして、俺らは俺らで報酬をもらうってだけさ。その上、この家をあんたが暮らしたい場所に移せるんだ。北国は辛いだろうから南国の方がいいか? あっちにもおれの知り合いはいるし、快適に暮らせるよう紹介するぜ」
「いや、あの、文七さん」
まただ。
三太は自分自身の舌を引き抜きたくなった。余計なことをしている自覚はある。けれど、文七の言葉はそれほど意味がわからなかったからだ。
「ん? なんでい?」
「あの、話が噛み合ってないと思います」
「どうして?」
「いや、どうしてって。そもそも、彼女はここから離れたくないって言っているんですよ? 確かに引越してもらわなくちゃいけないですけど、だからって頭ごなしに言ったって通じないですし」
「おいおい、誰が引っ越せなんて言ったんだ?」
「はぁっ?」
何言ってんだ、この猫?
いや、猫が物言う時点でおかしいのだが、それにしたって筋が通ってない。三太は初めて文七の言動に猜疑の念を抱いた。もしかすると、言葉が通じていると思っていたが話はまるで通じていなかったのではなかろうか。
「…あなた、まさか。いえ、ありえない…! だってそんなこと…でも、今の言葉は…!」
と。
何故か、少女は表情を変えていた。それは、言動のおかしい文七を嘲笑するものでもなく、慌てている三太を見て侮蔑の視線を向けているようなものじゃない。まるで信じられないことを聞いたかのような驚きとまだそれを信じきれていないような、そんな表情だった。
しかも、その迫力たるや。
三太が文七に対する追求を一瞬で止めさせるほどのものだった。
「そうさ。あんたの考えてる通りさ」
「この屋敷を異界に送ってやるのさ。こっちの世界に門を設置していつでもここに来れるようにしてやるよ。そうすりゃ、あんたがどこに住んでたって娘に会えるぜ?」
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