私に関係あることなの?
「それは、私に関係あることなの?」
心底不思議そうに、少女は文七へ問い返した。
空気が凍る。
三太は息を呑んだ。さっきまで彼女に感じていた親近感が一気に失せた。和やかな会話の全てが無駄だと強制的に悟らせられる。手に持ったカップをテーブルに置き、いつでも対応できるようにと身構える。
この一言はいくらなんでも決定的すぎる。
腰の柄に手を添える。当然少女には悟られているだろうが、知ったことじゃない。重心の位置も調整し、抜刀と同時に斬りつける体勢を整える。
その間も少女は不思議そうに三太を見ているだけだった。
それが恐ろしい。
というか、ことここに至ってようやく三太自身は自覚することができた。
絶対に、勝てない。
生まれてこの方、月夜野家嫡男として武道を学ばされてきた。だからこそわかる。力量の違い。あるいは、自身の未熟さそのものか。
目の前の少女は紛れもなく、三太よりも上だ。刀を抜こうと、おそらくは抜く前に三太は死ぬ。
この感覚は父と対峙した時以来。あるいは使用人達との真剣勝負の時以来か。
過去の経験であれば、三太はすぐに降参することで事無きを得た。けれど、この状況でそんな真似ができるはずがない。せめて文七は守ろうと一歩踏み出そうとして、
「いや、何も関係ねえさ。正直、おれだってどうでもいいしな」
文七の言葉に、三太は今度こそ思考が停止した。
なにをいってるんだ、この人、いや、猫は。
「え? なら、どうしてそんなことを聞くのかしら?」
「建前ってやつだよ。おれの役職上の都合さ。あんたがどんなつもりなのか気になってね。今の答えなら、まぁ、許容範囲ってやつかな」
「んー? どういう意味?」
「あんたが異界化することが目的なら問題だが、どうにも違うみてえだ。だったらやり方はいくらでもあるってことさ」
かんかん、と煙管を叩きつける音が鳴った。
文七だ。いつの間にか、その肉球にいつもの煙管が握られている。文七は三太を横目で一瞬だけ見た。が、すぐに正面の少女へと向く。
視線の意味は、当然ながら身を引けという事だろう。
またやってしまった。
三太は腰から手を離し、ソファに身を沈める。
今度こそ、三太の心が折れた。
再三の早とちり。全てを台無しにしかねない状況に、いい加減、自分自身に失望する他ない。あとは黙って事の次第を見ることにした。
「ふぅん。よくわからないけれど、私はこの家から離れる気はないわよ?」
「そりゃそうだ。なにせ、自分の家なんだ。娘も、そのうち帰ってくるかも知れないしな」
だろう? と文七は少女へ問いかける。
少女は否定も肯定もせず、
「だったらどうするの? ここに私が居続けると困ったことになるんでしょう?」
そんなことを言う。
それに対して、文七は、
「簡単だ。この家を移せばいい。どこに行きたい? 北でも南でも、遥か地平の彼方でもよりどりみどりだぜ?」
そんな、出来もしないホラ話のような言葉を返した。
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