朝食
「今日は下見に行く。なに、お前さんは昨日と同じようにおれの後ろをついてくるだけでいい」
ある意味、予想を裏切られたといえばいいのか。
食卓に並んだのは秋刀魚の塩焼きにほかほかの白米や大根の味噌汁、茄子の漬物に小松菜のお浸し。そして、梅干しの入った壺が中央に置かれている。こてこてのど定番の朝食に、三太は思わず喉を鳴らした。見た目もさることながら香りも素晴らしい。何より素晴らしいのは、朝食が完成するまでの過程である。
三太が手伝おうと名乗り出たがなんの役にも立てなかった。どの料理も作れるが文七の流れについていくことが出来なかったのだ。手際の良さの次元が違う。三太はその様子を見るだけでこの屋敷に居候した甲斐があったと確信した。
味も申し分なし。これはなんとしても盗まねば、と三太は白米をかきこみながら思った。
「ちょっと。あんた、あたしが作った時より美味そうに食べてない?」
「そっちだっておかわり三杯してるじゃないか」
「こら。おれの話を聞け!」
三太と瀬菜が朝食にがっついていると文七は怒鳴り声を上げた。
文七はいつの間にか衣服を着込み、昨日と同じ大きさに戻っていた。近くで見ていたはずの三太にもその絡繰はよくわからなかったが、そこを詳しく聞くつもりはなかった。そういったことはおいおい教えてくれると言っていたし、面倒を見ると言われたがまだ二日目なのだ。信頼関係すら結べていないのだから深く追求する必要はない。
なにより、三太にはここしか居場所がないのだ。ある程度のことは辛抱するしかない。
「ったく、元気があるのはいいがしっかりしてくれよ。お前さんには早く仕事を覚えて欲しいんだからよ」
「あの、聞いてもいいですか?」
「ん、なんだい?」
怒鳴られたがそこまで怒ってはいないらしい。三太の言葉に文七は普段通りの柔和な表情を浮かべている。
「立ち退きって危ないんじゃないですかね?」
「ああ。まぁ、大抵は話し合いで解決するんだろうがなぁ。正直、『渡来人』が関わった時点で鉄火場は覚悟しなきゃならんだろうな」
「やっぱり刃傷沙汰になったりもするんですか?」
「んー。調書を読む限りじゃそういうことをするような種族じゃないみたいだが、まぁ、会うまではなんとも言えんわな。なにかしらあるってことだけは覚悟してもらうとして」
「安心しな、おれは強い。お前さんに危険が及ぶことはねえさ」
そんな風に言って、文七は三太を安心させるように目を細めた。
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