父親 三
「ぼくは、父親を恨んではいません。ただ、あの在り方だけは受け入れられないと思ったんです」
溢れた言葉は三太自身の動揺とは裏腹に澱みのないものだった。
語る中身ですら自身の本音と言っていいのかもわからなかった。ただ、間違っていないとだけは思えた。父親に対する感情。それは、怨嗟や恨み辛みの類では間違いなくないのだ。
そう、勘当を言い渡されたあの日。
三太が父に対して感じた感情はそんな熱が籠ったものではなかった。
むしろ冷え切っていたように思えたのだ。
「父は明らかに自身の感情を殺していました。ぼくが使用人を殺した時もなにも言いませんでした。ただ罰としてそうしなければならないからそうしたというだけでした。だから、恨むというよりもどうでもよくなったんですよね。だから特に未練もなかったので家を出ました。そこで文七さんに会ったんです」
「それでこんなことにも巻き込まれた?」
「まぁ、そうですね」
夜空が綺麗なせいだろう。
三太自身も、おそらくは市村ヨネからも言葉が溢れるように落ちてくる。
「どうして、文七さんの提案に乗ったんですか?」
「鼻を開かせると思ったから。でも、まさか軍隊まで連れて攻め込んでくるなんて思わなかったわ。あなたはどうして積極的に協力してくれるの? やっぱり、私にママになって」
「気に食わなかったからですよ。ああいう父親は。家とは違いますけど、似たような人に見えたので」
「後悔してる?」
「いえ。自分で選んだことですから、後悔はありません」
そう、自分で選んだのだ。
その事実が三太にとっては何よりも重要だった。
父親も家のことも関係ない。ただ己の生き方を決めるということがどれだけ大事で、どれだけ心地いいことか。
そう、家から出ただけで全てが変わった。
それも数日しか経っていないはずなのに。
これが生きるという意味なのかもしれない。
それだけでこの場所にいる価値があると思えた。
「ねえ、これは聞いていいのかわからないんだけれど」
「なんですか?」
市村ヨネは珍しく遠慮がちに言った。
「あなたの刀。あれってなんなの? あの時のこと、未だに理解出来ないんだけれど」
当然の質問だと三太は思った。
だから、刀を鞘から抜いて手渡した。
「え! いや、ちょっと!?」
「別になんの変哲もない刀ですよ。刃には注意してくださいね」
「いや、魂だとか、どうとか言ってたんじゃ…」
ぶつぶつと呟く市村ヨネはそのまま刃をじいっと見つめたり、柄の感触を確かめたりしている。三太の刀をくまなく調べ上げるつもりなんだろう。流石に刃へ触れようとはしなかったが念入りに調べる姿を三太はただ眺めている。
別に困ることでもなかったからだ。
なにせ、三太の刀には何もないのだから。
「本当にこれ、普通の刀なの?」
「ええ、本当ですよ」
「僕はただ僕が断ち切りたいもの絶ってるだけなんです。だから、あれがどういうことなのかは僕自身もわからないんですよ。ただ全部が台無しになるってことだけしかわからないんです」
それがあの出来事の真実。
三太はただ自分が斬れるもの、あるいは斬りたいものだけを切っているだけなのだ。
その出来事であったり、そのつながりであったり。
原理原則なんてありはしない。
だから、三太は父親に剣士として失格だと烙印を押されたのだ。
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