父親 二
「あの男はどれだけ思い出そうとクソ野郎でしかなかった。やられたこと、やったこと。その全部が気に入らない。まともな親だなんて絶対に言えないし、言わせないわ」
苛烈な言葉に相応しいほど聞き迫る表情で市村ヨネは言う。
相変わらず父親のことを語る時はそれまでとは考えられないほどの劇場に駆られているようだった。気持ち自体は十分に理解出来たがその感情だけはついていけないとどこか線引きしていることに三太は気づいた。
三太は父親のことでそこまで感情的にはなれないのだ。
「でも、貴女のことをずっと見守っていたんでしょう?」
「それが一番腹が立つのよっ!」
叫び。
穏やかな雰囲気が一瞬で壊れた。けれど、何故か三太は特に驚かなかった。地雷を踏むことはわかっていた。そして、それが必要なこともなんとなくわかっていたからだ。
そこまで踏み込まなければ、彼女から父親に対する本心が聞けないことに気づいていたのだ。
三太が、自分自身でも父親に対する思いがわからないように。
もしかすれば、彼女自身も父親に対する思いがわからないんじゃないだろうか。
三太はそう思っていた。
「そもそもあの家だってママが私にくれたものだったッ! あいつが暴れたせいで逃げなくちゃならなくて、そのせいであたしは色んな世界に逃げるハメになったっ! ほんと、あたしの人生はあいつのせいでめちゃくちゃになったんだ…」
父親のせいで人生が台無しになった。
彼女の言葉に嘘はない。
だからこそ三太には共感できなかった。それは三太と父親との関係とはまるで違う。自由に生きた男、それに翻弄された身内の心情の吐露に他ならない。三太とは真逆の状況だ。それに共感なんてできるはずもない。
「でも、それでも良いことは確かにあったんだ。あの人と出会って、あの子を産んだ。一人前の人げに育て上げた。だから、許せると思ってた。私も変わったと思ってた。でも、無理だ。あたしは何も変わってなかった。未だにあいつに怯えるだけだった」
あの男と対峙した時の彼女を思い出す。
あれは父親に怯える娘というにはあまりに不憫すぎる気がした。父親というよりも理不尽すぎる暴力に対峙する子供と言った方がしっくりくる。暴力の権化であるあの男に対しては正しい反応だとは思う。けれど、それは明らかに子供がすべき反応でもなかったんだろう。
子は親を選べず、親も子を選べない。
だからこそ、親が全てを支配しようとするなら子はそれに抗う。
彼女の家や三太の家もそうだったように。
彼女は一度逃げ出して、それでも追いつかれた。
三太は逃走中。
それは明らかに彼女と三太が違うことを示している。
「だから、ここで決着をつける。暴力はなしでね。私は私のやり方であのバカ親父に勝つんだ」
だから、彼女の答えはあまりにも眩し過ぎた。
三太はただ、それを黙って見届けることしか出来ないのだろう。
そう思った。
「ところで、三ちゃんはどう? あなたはどうするの?」
その一言。
市村ヨネから投げられかけた言葉に、三太は言いようのない寒気を感じた。
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