父親
父親。
三太にとっての父親は人間ではない。あれはもっとなにか機械的な何かだと認識していた。感情は極めて薄く、口を開けば小言ばかり。忖度は当たり前で三太と共に育った月夜野家の使用人たちとは出来の違いはあるとは言え、どれだけ差別をされてきたか。いや、あの男にとっては区別だったのだろう。
全てはお家のため。
その点で言えば、市村ヨネの父親はまだマシなのかもしれないと三太は思う。
なにせ、自分の意思で国を治めている。どこかの誰かの命令や世間の目とやらに重きを置いていない。あくまであの男自身の意思だけなのだから、わかりやすいことこの上ない。武家という権力構造の歯車になっているだけのあの男とは雲泥の差のように思えた。
うすらぼんやりとした頭のままで、三太はそんなことを思った。
…至極どうでもいい思考だった。けれど、そんなことを考えてしまうくらい穏やかな空気だったのだ。
あの後、腹一杯に試作品を食べた三太は自室に戻らず、屋敷の中庭と思しき場所にいた。
夜空を見たいと思ったのだ。…嘘だ、そのまま自室に戻れば食べ過ぎのせいで具合が悪くなると思ったのである。せめて立った姿勢でいたかったし、あの部屋にいても退屈だろうからと足を運んだに過ぎない。
屋敷の中央をくり抜いたような位置にある中庭は広さはそれほどなかったが、そこから見上げる夜空はどこか趣があった。四方を二階建ての壁に囲まれているので窮屈さを感じるだろうと三太は思っていたが、不思議と感じなかった。
女の方の使用人の姿はない。けれど、どうせどこからか監視しているはずだと三太は確信していた。それが気にならないくらい静かな雰囲気。
それが妙に心地よくて三太は夜空を見上げている。
「眠れないの?」
ぼんやりと空を見上げていたら、そんな声で現実に戻された。
見れば市村ヨネが二階の窓から顔を出していた。どうやらそこが彼女の寝室らしい。三太は未だに屋敷の構造は把握しきれていない。二、三度迷いながらようやく自室とこの中庭への行き来が出来たくらいなのだ。あとは台所と食事を食べる広い居間、そして厠だろうか。その程度しか道を把握できていなかった。
「ええ。少し昼寝をし過ぎました」
「それは大変。子守唄を唄いましょうか?」
「本気で止めてください」
「あら、照れてるの?」
「本気で嫌なだけなので勘弁してください」
市村ヨネはええーとすごく残演そうな表情を浮かべている。その仕草があまりに自然過ぎて、なんだか肩の力が抜けたような気がした。
それと同時に、ある疑念が三太の中で湧き上がる。
そう、そもそもの話だ。
三太がこの状況に陥った要因は彼女にある。なのに、どうしてか三太はそれを言及せずにいた。
だから、
「あの、どうして僕の母親になりたいんですか?」
この機会に聞いてしまおうと思ったのだ。
以前にもした質問だが、今なら誤魔化さずに答えてくれるような気もした。そんな雰囲気だったから。
市村ヨネは少し間を空けたあと、
「そうね。それも話さなきゃ行けないわよね」
そう言って、窓から華麗に飛び降りたのだった。
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