思いを込めて 拾壱
「…おいしい」
三太は無意識のうちにそう呟いていた。
調理されてから時間が経っているため冷めているのは間違いないがそれでもおいしい。酸味や辛味が強いがそれ以上に旨味が溢れてくるのだ。出来立てであったらどれだけよかったか。三太は怠惰な自分自身を呪いたくなった。
「まだまだあるわよ」
にんまりとした笑顔に薦められて三太は手を伸ばした。
どれもおいしい。
出来立てであればもっとおいしかったのに、本当に損した気分だ。
三太が夢中に頬張っていると食器洗いが終わったのか、文七がやってきた。何故か手には大皿とこれまた見たこともない料理が載っている。不思議なのはどこか冷めている印象を覚えたことと、皿の一部に明らかに手をつけたとしか思えない空白があるところだ。
どうやら、試作品はまだまだあるらしい。
「本当においしいです。…でも、ちょっと作りすぎじゃ」
無意識にこぼした言葉だったが、三太の本心でもあった。三太は決して色が細い方ではないが限度というものがある。臆している三太を見て文七はにやりと笑みを浮かべた。もちろん猫の姿のまま。よくここまで悪い顔が出来るものだと三太思った。
「男が遠慮なんてするんじゃねえ。貯蔵庫も一杯なんだ、少しでも空きを作ってくれや」
「いやいやいや、そんなに食べれないですけどっ」
「いいから食え」
三太の前に大皿が押し寄せてくる。一品一品が軽いものならまだいいのだが、どれも統一性がなく、主菜や前菜と思しきものが複数あるのが辛い。というか、いくらなんでもこんな量を食べ切れるはずもなかった。
助けを求めようと市村ヨネを見たが、彼女も例のにこにこ笑顔で三太を見ているだけ。これは確信犯の笑みだったかと三太は悟った。
「いや、でも、あの、そうだ! 結局どれにするか決まったんですか? 先にそれを食べないと」
三太は苦肉の策として言った。そもそも食事会のメニューを決めるために試食品を作っているのだから、ある程度採用の目がある料理を優先するのが当然のはずだ。それを試食して感想を述べれば場の雰囲気も変わるかもしれない。
三太の目論見は当たった。
けれど、思った以上の効果だった。
「そこ、なのよね」
市村ヨネから笑みが消え、憂鬱な表情が浮かんだ。それが場の雰囲気を一気にどんよりとしたものに変えてしまう。文七からも揶揄うような雰囲気が消え、どこか真剣な表情へと変わった。使用人は相変わらず胡散臭い笑みを浮かべたまま。
「結局、私はあいつのことをなにもわからないのよね」
市村ヨネの言葉には全てが詰まっている。
和解の食事会。
それは、多分相手のことを思わなければ成立しないものだ。相手を思うということは相手を理解していることが必要不可欠。あんな父親を理解するなんてことを大抵の子供には出来ないんじゃないだろうか。
三太の考えは市村ヨネの様子を見れば決して間違いでないことを証明していた。
読んでいただきありがとうございました!
明日も投稿予定ですので、また見てください!
感想、ブックマーク、評価いただけるとやる気が倍増するのでぜひポチッとよろしくお願いします!




