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近づいていくと、それが何のモンスターなのか分かった。
種族名:青雷鯨ディープ
レア度28の雷属性のモンスターである。
始まりの街で順当にストーリークエストを進めていくと、レア度26の
種族名:羽根弱ガルト
というモンスターが手に入る。変な名前だが、ちゃんと【飛行】アクションを待っていて、クエスト報酬として序盤に手に入るモンスターの中ではかなり優秀な部類となる。
ただ一つ大問題があるとすれば、実際にこの羽根弱ガルトを使用するためには、親衛モンスターに指定する必要があり、
貴重な親衛モンスターの1枠をこのモンスターに使ってしまうと、、、。
『詰み』とまでは言わないが、後々苦労することにはなるだろう。
まあそこら辺は一旦置いておく。
とにかくこれにより、もしもガチャで【飛行】アクションを持つモンスターが手に入らなくても、ストーリークエストを進めることでこの羽根弱ガルトを入手して、次の大陸に進むことが可能になるのである。
そして羽根弱ガルトをちゃんと育てれば、ちょうどいい感じの戦闘相手となるような、そんな狙いすましたかのような強さをしているのが、青雷鯨ディープである。
ぼくがゲームを始めた最初の頃、バカ真面目に育てた羽根弱ガルトで戦ったのが懐かしい。結局ギリギリで勝利したことを覚えている。まあ、そのアカウントはその先であっさりと『詰み』となり、さっさとリセットしたのだが。
だが、今では全く状況が違う。
レア度28の青雷鯨ディープなど、レア度84の黒疾風グランの敵ではない。
この世界において、レア度の差というのは残酷なまでに大きなステータスの違いとなって現れる。
ただでさえ強ステータスとなりやすい龍属の、レア度84のモンスターであれば、例えレベル4であっても負ける要素が無い。
アフリカ象VSミジンコ
以上の差があるといえば分かりやすいだろうか。
そんなわけで、黒疾風グランの何のスキルでもない普通の尻尾攻撃でワンパンで倒させてもらった結果、
メタリックスライムと黒疾風グランのレベルが上がった。
龍属かつ超高レアの黒疾風グランのレベルはかなり上がりづらいのだが、まだレベル4ということもあり、1レベルだけ上昇した。
そして、メタリックスライムは一気に16レベルも上がった。
しかしここで忘れてはいけないことが一つ。
そのレベル上昇時のエフェクトが出てきている間にやるべきことがある。
僕は永続系アイテム【ステータス選択】をアイテムBOXから17個取り出し、
メタリックスライムに16個、黒疾風グランに1個、それぞれ与えた。
これは簡単にいうと、自由ステータス枠を、文字通り自由にプレイヤーが選ぶことのできるアイテムだ。レア度はSで、かなり入手難度は高いのだが、一応ゲーム序盤でも手に入れることができるようになっている。
僕が1年間、最も必死になって集めていたアイテムがこれだ。
そして、メタリックスライムという、高くも低くもないレア度の微妙なモンスターをわざわざリセマラしてまで手に入れて、親衛モンスターのファーストに指定した理由もここにある。
メタリックスライムは、進化を重ねると、最高レア度の99に辿り着く。
個体名:黄金盾スライムGX
ゲーム内の隠し要素の一つであり、伝説として祀られるほどの存在。その存在を神として崇めるnpc集団がいるほど。
レア度99のモンスターは他にもいるが、その中でも群を抜いて輝いているのがこのモンスターだ。
特徴はなんと言っても鉄壁の防御だ。それに加えて、溢れんばかりのMPと固有スキルの嵐。
ここだけ聞くと無敵の存在に思えるが、実はそうでもない。
たしかに、普通に攻撃しても全く防御を突破できず、1しかダメージを与えることができない。必殺級のスキルを使用しても1ダメージしか与えられなかった時のショックは、ちょっと心に来るものがある。
しかし、そういったモンスターの倒し方はどんなゲームでも大体共通だ。
そう、固定値のダメージを与える戦法である。
似たような考え方で【貫通】系のスキルや【防御ダウン】系のデバフスキルを使用するというのもあるが、
黄金盾スライムGXは自身の防御力に左右する効果を無効化する特性【クリアボード】が付いている。
防御デバフのスキルが効かないのはもちろん、【貫通】系のスキルに関しても、これは結局のところ一時的に相手の防御をゼロにする、という効果であるため無効化されてしまう。
したがって、残った手段は固定値によるダメージを与えていくということになる。
手順はこうだ。
まず【攻撃力ダウン】系のデバフスキルを持つモンスターで、黄金盾スライムGXの火力を下げる。これは防御力には関係ないので特性による無効化はされない。
そしてあとは
【爆薬(LL)】を使用して固定ダメージを与えて削っていく。消費系のアイテムにはクールタイムがあるので、【全体回復】スキルを乱射しながらひたすら黄金盾スライムGXの攻撃を耐え凌ぐ。
クールタイムが終わったらまた【爆薬(LL)】を使う。
この繰り返しだ。
途中で何度か黄金盾スライムGXが回復スキルを発動してきて心が折れそうになるが、それでもやり続ければいつかは倒せる。
これが唯一の攻略法である。
そこで僕は考えた。
じゃあその唯一の攻略法も阻止できるように自分で1から育て上げれば無敵なのでは?と。
モンスターのレベルが上がる際、ステータスが上昇するわけだが、そこには二つのシステムが働いている。
一つは、最初から種族ごとに定められている『固定上昇値』によるもの。
もう一つは、自由ステータス枠のランダム上昇である。
種族や個体の性格や性質によってその割り振られ方が偏ったりするが、基本的にランダムに振り分けられる。それがランダム上昇である。
そのランダム要素を自分の手で設定できるようになるのが、レア度Sの永続系アイテム【ステータス選択】である。
永続系のアイテムに分類されてはいるものの、1レベル毎に1回分の効果しか発揮しないため、実質消費系のアイテムと変わらない。ただ、消費系アイテムと違ってクールタイムが存在しないことは非常にありがたいので、特に文句は無いのだが。
というわけで長ーい説明から話は戻るが、
本来ならば『クリティカル』や『物理攻撃』などに割り振られてしまう可能性のあるステータスを、全部強制的に『HP』に振り分けることができるわけだ。
これがどれだけすごいことか、ゲームが好きな人なら分かるだろう。
ちなみに、スライム系の種族のモンスターは、HPが上昇しにくい性質がある。
固定上昇値でHPが上がらないのはもちろん、ランダム上昇でも、HPにはほとんど割り振られない。これが、性質による偏りというやつだ。
だが、アイテムを使用して自分で育てる分にはそんなのは関係ない。
こうして、何の問題もなく、16レベル分の自由ステータス枠を全部HPに割り振った僕は、メタリックスライムのHPが一気に伸びたことでテンションが上がった。
まあ一気に伸びたと言っても、自由ステータス枠がそもそもそんなに多くはないため、固定上昇値の防御力の上がり方には到底敵わない。
しかし、メタリックスライムという無進化状態からコツコツとHPを育てていくことが重要なのである。
モンスターの感情は分からないが、メタリックスライムも少し嬉しそうにしている気がする。
実際にレベルが上がり、アイテムも使用できることが確認できて良かった。
さあ、冒険の続きだ。
黒疾風グランは再び上空へと舞い上がった。