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思い返してみると、あっという間だったなぁ。
ぼくはここ1年の自分の活動を振り返った。
突如世界各地に現れ、世間を騒がせた謎の預言者集団がいた。
『きっかり1年後、地球は崩壊して新たな世界が始まる』
そんな謎めいた発言を、テレビ局を占拠するなどテロリスト紛いなことをしてまで世間に伝えようとした団体だ。
最初はその団体について、新手の宗教、テロリスト、麻薬など様々な憶測が飛び交い、ニュースや番組でも広く取り上げられた。
しかしその団体が逮捕され、日が経つにつれて、新たなニュースにかき消されていった。
数ヶ月もすればもはや面白おかしくネタとして扱われるようになった。
だが、ぼくはその預言を信じると決めていた。そしてその日から、僕はずっととあるゲームに入り浸っていた。
それはVRでも3Dでもなく、オンライン要素すらほとんどないゲーム。
簡単に言うと、激ムズでタチが悪い育成ゲームだった。
何度やり直したか分からない。
やり直しというのが、単純にゲームオーバーによるものならまだ良心的と言える。
このゲームの何が悪いのか。それは、『詰み』が発生することだ。
序盤は比較的シンプルに進んでいく。
チュートリアルがあって、ガチャが引けて、始まりの街の簡単なクエストを進めていけばいい。
しかしながら、ある程度進んでいくと行き詰まる。
レベルを上げ、進化させても無駄。圧倒的にステータスもスキルも足りない。
そこから取れる選択肢は二つだけだ。
1 マジックストーンを貯めて、当たりが出るまでガチャを引く。
2 最初からやり直す。
1の選択肢はオススメしない。本当に果てしない地獄となるだろう。このゲームには課金という制度が無い。もしあれば貯金を全額注ぎ込んだのに。
つまり、マジックストーンを貯めるのは本当に地味で退屈な作業となるのだ。
さらにいえば、ガチャで引き当てることの出来るモンスターは全部で1000万種類以上ある。
色、特性、レベル等も含めればさらにその数十倍のパターンになる。
とにかく、ありえないほどに種類が多い。そんだけモンスターの種類を増やしている暇があったらもっと面白いゲームを作れそうなものだが、あえて追求はしない。
あくまでこれは、ゲームが目的ではなく、一年後に訪れる地球崩壊に向けた準備なのだから。
そう、これは、地球が一変した後の世界を模したゲームなのだ。
では、ゲームなんかをして、意味はあるのか。
答えは、めちゃくちゃある。
なぜなら、地球崩壊後の世界に『引き継ぐ』ことができるからだ。
引き継ぐことができるのは以下の三つ。
・マジックストーン
・親衛モンスター
・永続系アイテム
マジックストーンに関しては、数少ないオンライン要素であるログインボーナスとデイリーミッションを欠かさずこなし、できる限りのクエストを完了させるだけで集まるのでそこまでの苦痛は無い。
アイテムに関しても、消費系アイテムと永続系アイテムがあるが、どちらも集めるのはそこまで大変ではない。
1番の問題は、当たりのモンスターをガチャで引き当てることだった。
これが本当に大変だった。
何度リセマラしたのか正確には数えていないが、10000回は軽く超えているだろう。
思い出すだけでも疲れてくるので、今はこのくらいにしよう。
回想から頭を切り替えて、大地震直後の地球を見下ろす。
僕は今、緑の光に包まれながら、強い風を身に受けている。
そう、僕は飛んでいる。
飛行のスキルが使えるようになったのか。
いや違う。
このゲーム、すなわち現在の地球で、【プレイヤー】の戦闘力はほぼ皆無であり、レベル上げも進化もスキル取得もできない。
ぼくは、
種族名:黒疾風グラン
の背中に乗っているのだ。
黒疾風グランは僕の親衛モンスターの1体であり、【飛行】アクションを所持している。見た目は、簡単に言ってしまえば黒いドラゴンだ。
親衛モンスターは全部で3体まで指定することができる。
指定した順に、
ファースト、セカンド、サードとよぶ。
一度指定したら、二度と変更することができない。
親衛モンスターは、普通のモンスターと比べて様々な特典が付く。それは早く指定したモンスターほど多くなる。
つまり、親衛モンスターの中でもファーストが最も多くの特典を得て、より強力なモンスターとなるのだ。
だからこそ、リセマラをしっかりと行い、慎重にファーストを決める必要があった。