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 本当にお客さんが来た。

 今日の朝昼営業も誰もこないか、と思っていたら、二時過ぎに、わたしが服を買ったお店のおばちゃん店員さんが来てくれた。


「いらっしゃいませ!」


 嬉しくなって、わたしが笑顔で挨拶をすると、おばちゃん店員さんは少しだけホッとしたような表情を見せた。やっぱり、来ては見たものの噂が気になっていたのだろう。


「服、似合ってるわねえ。あたしが選んだから当然かね?」


「はい、とっても動きやすくて助かっています。あ、お好きな席にどうぞ!」


 意識して丁寧に話す。この世界に生まれ変わってから、立場上、貴族らしい喋りばかりというか、丁寧に喋ること――敬語を使うことはなかったので、久々の喋りに緊張する。まあ、おばちゃん店員の接客からして、多少砕けた感じでも大丈夫そうだけど。


「メニューは……あっ」


 一番奥のテーブル席に座ったおばちゃん店員さんにメニューを持っていこうとしてはたと気が付く。この店のメニュー表、文字しか書いていない。店に客が来ることがなくて、不都合に気が付かなかった。

 メニュー表も拭き掃除くらいはするけれど、前世の店では文字しかない店も珍しくはないし、メニュー表では漢字っぽい独特の文字(多分和食本家の国の文字だと思う)の下にノイギ文字とおそらくはシルヴァイス語が書かれていたので、特に気にせず流してしまっていた。


「文字のメニューしかないんですが……大丈夫ですか?」


 一応聞いてみるけれど、案の定駄目だった。数字は分かるので金額を確認するのに問題はないらしいが、謎の漢字言語とノイギ文字は勿論、シルヴァイス語もほとんど分からないという。これは今後に向けて絵のあるメニューに変えていかねばなるまい。

「だ、大丈夫です! わたしが口頭で説明します。ええと……どんな食材の料理が食べたいとか、これは嫌い、とかありますか?」


「そうねえ……」


 おばちゃん店員さんの今の気分と好き嫌いを聞いて、よさげな料理をいくつか紹介していく。最初は明らかな異国料理に戸惑っていたようだけれど、だんだんと表情が興味を持ち始めたものに変わる。


「じゃあ『チクゼンニ』ってやつを注文するわ」


 おばさん店員さんいわく、ノイギレールでは煮込み料理は少し高級なお店でしか食べられないらしい。

 作るのに時間がかかるから、安くて早くて、みたいなお店には置いていないのだとか。朝まとめて作ればいいのでは? と思うけれど、庶民向けのお店ではキッチンは狭く客席は広く、という店の造りが普通なので、狭いキッチンにコンロを占領する煮込み料理があると回転率が悪くなるのだとか……。


 なんだか飲食店事情に詳しいな、と思っていると、なにやら息子さんが飲食店を経営しているらしい。美味しかったら勧めるわ、と言ってくれた。

 これはまたとないチャンス。

 

わたしはおばちゃん店員さんがツムギさんの料理を気に入りますように、いや絶対気に入るはず! と思いながら、ツムギさんに筑前煮のオーダーを通した。

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