俺の妹は、誰かの心も盗んだ模様…
『「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品です。
「賢者殿、協力を願いたい」
そう言って俺に頭を下げたのは、最近代替わりした騎士団長ヘクトル・ペンドラゴン。ペンドラゴン家の若き当主だ。
話を聞くと、昨晩開かれた仮面舞踏会で怪盗騒ぎがあったらしい。
怪盗って、三世だったり猫の目だったりマジシャンだったりするあれか? と、騎士団長殿の話を聞きながら前世の記憶を呼び起こしていると、怪盗の物と思われる遺留品があるので探索魔法で持ち主の居所を突き止めて欲しいと言われ、それなりにいい値段がするであろう繊細な装飾の、蝶の形をしたバレッタを渡された。
「…………」
モルフォ蝶のように鮮やかな瑠璃色のそれに、何となく見覚えがあるような気がしたものの、怪盗について話す騎士団長殿の態度には怪盗に対するものとは思えない熱意が宿っていた。
例えて言えばICPOの某警部のような。
厄介ごとの予感がしたが、遺留品に意識を向けながら口の中で探索魔法のスペルを唱える。
使用する探索魔法はサイコメトリーに似た効果を発動するものなので、髪留めに宿る“記憶”が脳裏に浮かんだ。
髪留めを作った職人、それを売る店の風景、様々な人が手に取ったり眺めて行った後──ローブを纏った自分に似た顔立ちの老年男性が購入し、うら若き女性にそれをプレゼントする場面が流れる。
(見覚えがあったのは義母殿が着けていたからか)
自分より一つ年下の女性と再婚した父の在りし日の姿がよぎり、現在の持ち主の姿──年の離れた妹が、髪留めとお揃いの蝶を模した仮面を付けてどこかを駆け抜け、今掌にあるそれを落とした。
その直後、目の前の騎士団長殿が髪留めを拾う場面が見え、探索魔法が収束する。
(エレイン、お前何してるんだ……?)
お転婆な妹の行動に内心溜息をついた時、隣の応接間が少し騒がしくなり──俺の従者が慌てる声がして、来客中だというのに部屋の扉が開いた。
「御機嫌よう、お」
いつもなら御機嫌ようの後に「お兄様」と紡がれる言葉は放たれることなく、ノックもせず扉を開け放った妹は騎士団長殿の姿を見るなり素早く回れ右してダッシュした。
「エレイン様⁉︎」
いきなり逃走した妹の遠ざかる背中に従者の声がかかる。その後ろ姿を見て何かを確信したらしい騎士団長殿は「彼女はエレインというのか」 と呟くなりバッと俺を見た。
「お義父さん、お嬢さんを私にください!」
「ハァ⁉︎」
騎士団長殿が勘違いしているようなので訂正する。
「俺はお義父さんじゃない。兄だ!」
この後、騎士団長殿の猛攻を受ける賢者殿(お兄ちゃん)であった…。
余裕があれば、妹視点と騎士団長視点も書きたいなと思っております。
追記:妹視点、UPしました。上のシリーズからどうぞ(リンクの貼り方がまだわかっていないので、分かり次第貼ろうかと)。