ローナ・クアトロ
開いてくれてありがとうございます。
主人公の視点の変化を感じてもらえるとうれしいです。
いつも独りだったアルナは先輩と剣術の稽古に取り組む、、、、、、。
室内練習場、2人の生徒が激しく戦っている。鳴り響く木刀のぶつかり合う音は室内でこだまし、時よりかけ声も聞こえる。
俺は右方向から振り下ろされた木刀を木刀で防ぐ。一撃は重いがなんとか踏ん張り耐える。すぐに左手で握られた木刀が前方から勢いよくやってくる。先輩は2刀流である。俺は後ろへ下がり体勢を立て直す。が、先輩はすぐに間合いを詰め攻撃を仕掛けてくる。防戦一方でなかなか攻めに応じることができない。チャンスができても先輩に重い一撃を与えることはできず、軽く防がれてしまいすぐに相手に攻めの主導権を奪われてしまう。そのような取り組みが続き、俺はここへきてミスを犯し少し体がふらついた。先輩は見逃さず2本の木刀で同時に力強く斬り込んでくる。俺はとっさに防ぐが力で負けてしまい自分の木刀は空中へ放り出され、地面へ跪く。そして顔の前に木刀を向けられる。
「参りました、、、、」
「今日も私の勝ちだな!これで5連勝!約束通り飲み物おごってもらうからな!」
先輩は息を乱しながら笑顔を浮かべる。ペアとなってから2ヶ月が経過しようとしていた。初めのうちはアルナの方が有利だったのだが、徐々に拮抗していきそして今の状態である。俺はなぜ負けるのかわからなかった。対策を考えて挑むのだが先輩と対峙するとどうしてか思い通りに動くことができない。まるで“気持ち”で押されるかのごとく。きっと実力では同じぐらいのはずなのだが。アルナは初めて“負け”という感情を味わっていたのだった。
「ほ~らアルナ、落ち込んでないで打ち込みやるよ!時間もったいないでしょ。ここの使用時間決められてるんだし!」
俺は立ち上がり剣を拾う。“経験の差”俺はそう思い込み練習に打ち込む。きっと魔法は先輩より完全に勝っている。幼いときからずっとやってきたから。対人で剣を扱うようになったのは学士院に入学してから。先輩は親や兄とよく剣術の稽古をしたと言っていた。経験値でわずかに負けている。そう思いながらアルナは打ち込みを先輩と始める。
1ヶ月後。
「35連勝~~♪」
俺の木刀が宙を舞う。今日も負けた。あと少しなのだが勝てない。未だに進歩がなかった。
『夢を持って剣を持ちなさい』最近ローナ先輩はよく言ってくる。うなずきつつも俺は今までその言葉を受け流してきた。自分に将来の夢はないしそれに夢を持ったって何も意味がないと思っていたから。でも今は少し気になる。俺は久しく、いや初めてだったかもしれない、先輩に向けて質問をした。
「先輩の夢はなんですか?」
「珍しいじゃん、アルナが私に質問してくるなんて!先輩らしいことができてうれしいよ!」
先輩はうれしそうだった。ただすぐに真面目な表情になって話し始める。
「私の家は下級貴族、とはいってもかなり貧しくて商人といっても農民といっても変わらないんだけどね。先代が貴族だったっていうのが妥当かな。それで親は兄が出世するのを期待してたんだけど兄は、、、、事故で亡くなったの。
残るは私だけになってね、親は私が女の子だからもう貴族に戻ることを諦めてたの。そんなとき私は親に自分の夢を伝えた。この学士院を3番目までの順位で卒業して、それぞれの地区の学士院の3番目までが集い競うマグナ魔剣大会で上位に入ることを。そうすれば高い地位の人に目を向けてもらえ、お声をかけてもらえる。ついでに私は美貌に自信あるし!そうすれば父と母を不自由な生活から救ってあげることができるし、これは実際兄がなそうとしてたことだから、亡き兄にいい恩返しにもなる。私の覚悟が伝わったのか親は無理して学費を出してくれた。そして私は期待に応えるために努力して今がある。私はそのために剣を振る。剣術が好きっていうのもあるけど、遊びでやってるんじゃない。」
最後の言葉はアルナの心に強く刺さった。そしてこれが自分と先輩の強さの違いのような気がした。夢なんか関係ないと思っていた自分の考えは少し変わった。
「一応聞くけど、アルナに夢はあるの?」
「ないです、、、」
俺はただ魔法と剣が好きでここにきたのだから。先輩は地面に落ちた俺の木刀を拾って柄の部分をこちらへ向け手渡す。
「これから考えればいい。ゆっくりでいいから。アルナには才能があるし、それにきっと夢なんて持たなくっても私ぐらいなら努力だけで追い越せる。」
先輩は一呼吸置く。
「今はただ、頑張ってればいい、目の前のことを!」
いつもの優しい笑顔を向けられる。俺は木刀を受け取り「ありがとうございます。」と一言言った。
「さあ、続きやるわよ!」
そう言われ、練習を始める。“夢”、頭の片隅に俺はその言葉をそっと置いておいた。
ローナ・クアトロは人を笑顔にするのが好きだった。彼女はアルナがよく独りでいること、あまり話さないことは親がいないからと思い込み元気づけようとするのだった。ただ、アルナはいつも無表情でしか反応しない。
この学士院の生徒はみな寮で過ごす。ちなみに財力のある家の子ほど大きな部屋を持っている。俺はよく先輩の狭い部屋に呼ばれた。
「失礼しま、、、、、」
部屋にいたのは猫耳のカチューシャを身につけた先輩だった。
「どうだ、アルナ?猫耳借りたんだが、かわいいか?」
「猫は苦手です。」
アルナは無表情で言葉を述べる。
「、、、、、、」
ローナの“アルナを笑顔にしよう作戦”は失敗に終わった。
~他の日~
「失礼します」
部屋に入って最初に目に飛び込んだ光景、先輩がベッドで仰向けに倒れていた。口から薄赤色の液体が垂れ下がり、目は見開かれ天井を見上げていた。俺は生きているとわかりきっていたが一応処置を試みる。
「魔力よ、生命に変えて」
と回復魔法を唱える。そのときローナは不気味に首をアルナへ傾けた。魂のあるブリキの人形のように。そして目を合わせた。
「“お・ど・ろ・け”」
と口パクで命令する。そしてまた不気味に首を戻し元のように戻った。アルナは指示に従い後ずさりして躓いた感じを表現し、最後に転んだ。そのときのアルナの顔は終始無であった。
「どうだアルナ?びっくりしたか?」
何もなかったかのような振る舞いをローナはした。
「、、、、、、、」
「、、、、、、、」
暗く深い沈黙に包まれる。“アルナを驚かせて表情を変えよう作戦”も失敗した。
~別の日~
「今日は渡したいものがある」
先輩はそう言って小包を俺に渡した。
「昨日の安息日に作ってみた。久しぶりの料理だったからちょっと失敗してしまったが、アルナにあげよう。先輩からのちょっとした感謝だ。」
その食べ物の見た目は、アルナにとって身近なものだった。
「鹿の糞みたいですね」
いつも通り彼は無表情だった。
「、、、、、、、、」
私はアルナはこういうやつだから仕方がないと怒りを抑えた。(アルナは味はおいしいと思っていた、もちろん言葉に出さないが)
“おいしいもので笑顔にしよう作戦”も失敗した。私の心が傷ついただけだった。
話の流れを変えるが、私はアルナの成績表を見て勉強も魔法もすごいことは知っていた。でもアルナが魔法を唱えているところは一度も見たことはなかった。こんなに一緒に過ごしているのに!でもあのとき、私は魔法を唱えるアルナを初めて見た。そのときのアルナ、いつもと表情が全然違った。なんだか、、、恐怖を感じた。
それは私と私の友達2人とアルナでちょっとしたハイキングに行ったときだった。確か夏の終わり、涼しい風が吹き抜ける日だった。
「ねえローナ、なんで彼を連れてきたの?なんだか悲しそうじゃん、男1人で。」
後ろで独りなんだか寂しそうに歩くアルナに友達は指を指す。
「アルナが森が好きだっていつだか言ってたから無理矢理呼んだんだけど、、、やっぱり楽しそうにはしないかー、、、」
「そりゃそうでしょ!やっぱりローナは頭おかしいよ!」
「だってアルナ、私が精神振り絞って盛り上げてあげても全然表情変えないから、1度くらい笑顔が見たいんだもん!」
「それ呆れられてるからでしょ、、、。」
「違います~~~~!アルナがおかしいんです~~~!」
先輩たちは盛り上がっていた。俺は先輩に一言言って帰ろうと思っていた。でもなんだかさっきから何かにつけられている気がしたので我慢してそのまま先輩たちについて行くことにした。
守りたいとかそういった類いの思いはアルナになかった。自分が守るから先輩達には楽しんで欲しいという思いもなかった。もしかしたらそのときのアルナには交戦できるかも、という好奇心が心の隅にあったのかもしれない。
私はアルナに気を使うことなくはしゃいでいた。今まで無視されてきたお返しだと思って放っておいた。つけられていることなんて知らずに。
「ローナ、私ちょっと疲れてきましたー。」
「私も少し休憩したいかな。」
「私はまだ平気だけどー、二人がそう言うならそこの岩陰で休みますか。」
私たちは休憩することにした。
「アルナ~~!休憩にしよ~~!」
私は少し離れたアルナに声をかけた。アルナは手を上げて合図をする。アルナはなぜだか後ろの方を気にしていた。何か珍しい鳥でもいたのだろうか?
「ローナは仲いいんだね、後輩君と!」
「そんなことないけど、、、。」
「私なんて後輩と出かけたこともないよー。それにローナの後輩君、かっこいいし成績もいいんでしょ!うらやましいなー。」
確かにアルナは冷たいし何でもまずは誘いを断ってくるし表情は“無”だけど、めんどくさい態度をとったり嫌な雰囲気を出したりはしない。そういう意味ではましなのかもしれない。でもやっぱり、アルナにはのりの精神を持って欲しい。
アルナの察したとおり、2人の男がかなり遠くから彼らを尾行していた。ローナの友達はそこそこの中級貴族の娘。上級貴族より安全面のセキュリティーが低い。それにどちらも一人っ子。親は大事に育てているはずだから拘束して人質にして身代金をかければ多額のお金を手に入れることができる。いくら学士院の生徒だからと言っても自分たちに比べたら魔法も身体能力もひよっこ。簡単に拘束できる。後ろでちんたら歩く男が3人の女性に近づいたそのとき、2人の男は一気に距離を詰めた。
私たち4人は敷物を敷いて円を作って座った。
「アルナ君、よかったらどうぞ!」
「ありがとうございます」
アルナはローナの友達からクッキーをいただく。見た目は素晴らしい。
「アルナ君はローナのことどう思う?」
「何聞いてるの!恥ずかしいじゃない!」
そのときだった。
「魔力よ、岩に変えて」
アルナが急に魔法を唱える。歩いてきた方面側に2メートルほどの高さの岩壁が現れる。突如“キーン”とその岩に金属の何かが当たった音がする。
「アルナ、なにが起、、、、、」
“ブオオオオオオオーーン”と頭上を炎が通り過ぎていく。熱い。それは鳥の形をしていて、通り過ぎた後方向転換をし私たちの方へ向かってくる。
「乾いた空から数多の水滴が生まれ包み込む。灼熱は消える、メイルストロム」
空に急に渦潮が現れ火の鳥を飲み込む。“シューーーー”と蒸気を上げながら火は消える。そして渦潮も消える。
“グサッ”、、、、、。男は目的対象外。殺したっていい。
「甘いね、、、、」
私たちの目の前に驚くべき光景が広がる。アルナが見知らぬ男に剣で刺されていた。飛び散る血。剣を抜かれアルナはその場に倒れる。
「アルナ~~~!」
悲鳴とともに奇声が響いたそのときだった。倒れたアルナは樹木へと変わり、男へと襲いかかり遠くへと退けていく。返り血は葉っぱへと変わりアルナはいつからだろうか、私たちの後ろにいた。声をかけようと思ったそのとき、もう一人見知らぬ男が空中に突如現れ、何やら魔法をうとうとしてくる。
「魔力よ、突風に変えて」
「力の向きを変えよ、ベクトル」
アルナの方が少し唱えたのが早かったのだろうか、狙いは私たちからずれて頭上の岩壁へと変わった。
「ベクトル」
今度は男の体に対して撃ったのだろうか、男は地面へと急降下していった。木々が折れる音がする。
私はたまたまアルナの顔を見た。その顔は、楽しんでいる顔だった。無表情だがいつもと何かが違い、それに悪魔のような恐怖も感じた。
危機はまだ終わらない。私は急に辺りが暗くなったように感じた。頭上を見ると大きな岩が落下してきていた。
「逃げて!!」
私の声を聞きみんな上を見るがもう遅い。潰される運命のはずだったのだが、、。
「太陽は止まり時間の流れは呼吸を止める我が意志のもととどまれ、テンプス」
アルナは違った。私の声を聞きすぐに行動へと体を移した。落ちてきた岩は、大きいものから小さながれきも含めその場にとどまった。その距離3メートルほど。危機一髪だった。私と友人2人はその光景を見て動けないでいたが、私はそろそろ落ちてくるんじゃないかと思い、
「早くこの場を離れよ!」
と催促するのであった。全員岩の下から抜け出し離れる。アルナが魔法を解くとガシャンと岩は地面に当たって崩れた。
「アルナ、あの2人組は、、、、」
「もう終わりました。」
何を言っているか理解できなかった。
木にとりつかれた男は体の表面から炎を出し拘束を解き、地面にたたきつけられた男は落ちる瞬間クッションを魔法で作り出し、どちらも傷はなかった。
しかし動揺はあった。アルナが学生のくせにむちゃくちゃ強いことに対して。
「どうする、、、。」
「あいつ、強いがこっちは2人。魔力の量では必ず勝っている。このままゴリ押せばいけるはず。ここは一発大きいのを繰り出そう。」
そう言って準備しようとしたときだった。
「ぐっ、、、、、。」
「なっ、、、、、、。」
黒い影が2人に絡みつき拘束する。動けない。そして口も封じられる。魔法を唱えることができない。アルナ本体は2人の男の後ろにいた。かなり前から気配を消して。
“グサッ”と背後から千本を刺す。最初に岩で防いだものを拾っておいたのだった。それで刺すと2人は眠ってしまった。睡眠針だった。黒い影で手足と口を縛り、先輩達がこちらへ来るのを待った。
「今日はもう、、、帰ろうか。警察にこの人達を届けて。」
私の友達は抱き合い、縛られた男達を見て震えていた。もう楽しむどころじゃなさそうだった。
「アルナ、いろいろありがとう!」
私は木の根元に座っているアルナにお礼を言う。もうあの表情ではなかった。いつものアルナだった。彼は何も言わずただ地面を見つめていた。彼から達成感や正義感は全く感じなかった。なんだか絶望しているようにも見えた。
私はこの出来事を通してアルナの強さを知った。剣術は私の方が今は上だが、魔法やその場の判断力などを合わせたら私なんて格下だった。アルナ・アルバート、私はすごい後輩をくじで当ててしまっていた時日に今更気づいたのだった。
ある日の安息日。先輩と俺は山で昼食を食べていた。“自然の中で過ごそう”と先輩が提案したのだった。ローナはおにぎり片手にアルナに文句を言う。
「アルナは全く表情を変えないよね。私が頑張って盛り上げてるのに、、、。アルナとは絶対に結婚したくないな。毎日がつまらなさそう。ほんとかっこいいのにもったいない!」
そう言ってため息をついた。少し怒っている。
「まあでも、アルナは剣振ってるときと魔道書読んでるときがなんとなく1番いい顔してる。好きなことがあるってのは大事。好きなことが何もなかったら生きていけないからね!」
そう言っておにぎりを全て口へ頬張る。
最初は嫌だった。でも今、アルナは先輩と一緒にいるのは面倒くさいが嫌ではなかった。そして、独りの剣士として尊敬していた。
「アルナ。」
おにぎりを流し込んだ先輩は俺に質問を投げかけた。
「夢は見つかった?」
「まだ見つかっていません。」
先輩に言われてから何ヶ月か経過したがまだ何も向かっていく夢はない。
「じゃあ最近剣術の腕が上がったと思ったのはアルナが成長したからかー。うらやましいなー、すぐに成長してーー。」
皮肉交じりにローナはアルナを指でつんつんする。最近俺は先輩に剣で勝てるようになっていた。それまでに100連敗という経験をしたが。
「まだ夢が見つかってないのかー。じゃあ見方を変えて何かを守るために剣と魔法を使うのはどう?」
先輩は提案してくる。
「大切な人とか大切なものとか、、、、、何でもいいから。アルナにそういうことがあるかわからないけれども、、、」
俺に大切な人なんていない。人なんてどうでもいい。ものもない。ただ、先輩にそう言われて自分が今まで大切にしてきたものを探してみようとするようになった。大事にしたいものを見つけようと思った。
先輩は卒業した。有言実行、この学士院を次席で卒業した。そしてマグナ魔剣大会。こちらも有言実行、ベスト5位という上位に入った。いつもの剣術の練習の時の表情とは違い迫力のある戦いをしていた。大きな夢があると人はここまで変われるのものなんだと初めて思った。
大会は終わり闘技場の外で先輩と卒業以来再会した。1週間ぶりだと思われる。試合後先輩は多くの名高い貴族の男性からお声をいただいたらしく、先輩の憧れの人からも声をかけられたとはしゃいでいた。先輩の夢は叶ったのであった。そして、俺に言葉をかけてきた。
「アルナは私より強い。あとは“思い”だけ。それがあればきっとこの大会でだって1位になれる。そしてこれからはアルナは先輩。アルナが後輩を持つ姿なんて想像できないけど、、嫌でも頑張りなさい!私がしてあげたこと思い出して、私みたいな先輩になりなさい!」
そう張り切りながらアルナの肩を押した。ただ、隣にいるおそらく友達である先輩は「ローナみたいになっちゃだめだよ。」と笑いながらアルナに言う。
「何よ。失礼な!」
「だってローナ変なところあるじゃん!」
「アルナとの最後の日にそんなこと言うな。私の先輩としての立場がなくなるじゃないか、、、、」
ローナはあせあせしていた。先輩たちが言い合っている中、俺は言葉を発した。
「ローナ先輩、いままでありがとうございました。“夢”が大切のことだと今日の先輩の姿を見て改めて感じました。頑張って見つけようと思います。」
いつも通り言葉に感情はこもっていない。
「それと、、俺は人と話すのが苦手ですけれど、ローナ先輩は、好きでした。」
照れもせず、恥ずかしがりもせずアルナはそうつぶやいた。いつもの無表情で。
次の瞬間俺は抱きしめられた。先輩に強く。なぜだろうか、少し心に暖かみを感じた。先輩は俺から離れて言った。
「アルナ、かわいいこと言えるじゃない。もっと前々から素直になりなさいよ。」
照れを隠せず小刻みに動いていた。そして俺の頭をくしゃくしゃし「ありがとう」と笑顔で言ってきた。親のいないアルナにとっては初めての心のこもった感謝だったかもしれない。また、アルナは気づいていないが彼女は少し涙を浮かべていた。最初にあった時は終始暗くて、ほとんど口を開かなかったあのアルナに“好きでした”と言われるような先輩であれたから。アルナのためになれたから。でも一度でいいから彼の笑顔はみたかったなー。
「頑張りなさい!」
先輩は拳を俺に向けて友達とどこか遠くへ消えていった。アルナの心には未だに初めて感じたあの暖かみが残っていた。これはいったいなんなのだろうか。
読んでくださってありがとうございます。
次回からは後輩ちゃん?くん?とのお話になります。
ここからはまあまあ自分でも好きなお話ですので、是非読んで欲しいです!
ゴールデンウィークに本命の「形のない約束」をたくさんアップするつもりなのできれば目を通していただけるとうれしい限りです!!