アルナ・アルバート
スロースタートなお話だと自分は思っています。なので、最後まで見てくれるとうれしいです。
また、このお話は一応続きのストーリーを頭の片隅においてあります。いい作品だと感じたらコメントをお願いしたいです。続きを書くか書かないかの判断材料にしたいと思います。つまらないと思ったら放置でw。では、はじめます、、、、。
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アルナは遠くの景色を見つめる。
「遅れてしまいました~~~!」
坂を駆けてくるかわいらしいシルエットの少女。白い服装がひらひらと風に揺られる。
いつも後悔する。あのときから変わっていたらと。そしたら、どんな今があったのだろうか?
やってきた少女は息を切らしながら
「すみません~~~」
とかわいらしい謝り方をする。
「遅い」
と一言。昔ならこれだけで終わっていた。俺はなんとなく少女に述べる。
「今日も頼りにしてるからな。」
笑顔でこんな言葉なんてあのときは言えなかった。
それは昔のこと。人々は生きるために戦っていた、、、、。
巨大なモンスターに捕まり手で握られる。
「キャーーー」 「放せぇーー!」
鳴り響く奇声。そして、“グシャリ”と潰され醜い姿となる。それが毎日どこかで起きていた。人々は死を恐れた。そして、どうにかできないかと考えたのだった。
そこで鉄剣を生み出しモンスターを斬り、弓を生み出し遠くから射貫き、ちり紙を生み出しお尻と心に清潔感を与え、髪飾りを生み出し男を誘惑し、、、、、まあとにかく、人には知能があった。そのおかげで一時の平和が訪れる。ただ、モンスターにも人間ほどではないがある程度の知能はあった。そう、彼らは真似をした。この時代、特許庁などないのだから。
武器を真似され力の立場は均等になり平和な時代は流れ星のように一瞬で終わりを告げた。人は生き残るために真似されないものを作らなければならない状況となった。より複雑で高度なものを、、、、、
何年もの時が過ぎた、、、、。
「魔力よ、灼熱に変えて!!」
ある1人の人間が唱えると何十匹ものモンスターの足下から炎が盛大に燃え上がった。周りのモンスターはわめきながら逃げていく。
「魔力よ、雷鳴に変えて!!」
1匹1匹を稲妻が貫いていく。悲鳴と雷鳴が共鳴する。そして残ったのは惨めにも灰だけだった。
人は「魔法」を生み出し自らの力とした。モンスターは真似できない。それはまるで神の身技だった。ただ、好奇心が強いモンスターは真似しようとする。しかし、人と同じ言葉のつもりで(実際はただの不協和音)唱えても炎は現れず、雷さえ現れない。中二病なモンスターはイキって魔道士の前でわめいて魔法を繰り出そうとするが、2秒後にはお決まりの灰となった。
まず中二病が減り、そして力に自信があるものが減り、ぶくぶくに太った王様的なものが減り、ある地域のモンスターは姿を消したのだった。
敵はいなくなり人々は村を作った。畑を作り、家を建て、城を建て、学校を作り、店を出し、、、、。人にとって平和な生活が始まった。今では国と呼べるような大きさとなり名前は『マグナ・ノヴァ』。かつて魔法を扱えたものが貴族となり、専属の商人を抱え財を得ていた。人口は増え続け、国は広がり、物は巡り、商人は豊かに商売ができていた。
まだ他の国があることも知らず、争いはなく王が国を束ね、貴族がそれぞれ与えられた土地を納めていた時代のこと、森に2匹の中型モンスターがやってきた。おそらく遙か遠い場所からやってきたのだろう。彼らは食料確保のため1匹の鹿に襲いかかろうとした。
そのときだった。
「魔力よ灼熱に変えて、、」
足下から炎が現れたため2匹のモンスターは驚き逃げていく。それをじっと見つめる人影、唱えたのは6歳の少年、白い髪で赤い瞳を持った上級貴族の子供、アルナ・アルバートだった。
アルナ・アルバートは幼い時から1人、森で木に向かって木刀を振った。魔法の本を読み1人森で練習した。時には動物を笛で集め一緒に戯れたり、鹿に乗って山を駆け回ったり、彼は自然の中で多くを過ごした。大きくなると鉄剣を片手に山奥へ行き好戦的な肉食動物と戦ったり、豊富に身につけた魔法で彼らを追っ払ったりした。しかし彼は決して殺しはしなかった。彼は自分の能力を高めるためにそんなことをした。彼は剣術と魔法が好きだった。でもなんのためにそれらを使うかはわからなかった。ただただ剣術と魔法が楽しかった。そして彼は強かった。
アルナの母は彼が1歳の時に亡くなった。そして父は10歳の時に亡くなった。どちらも病気だった。母のことは覚えておらず、父は貴族の仕事が忙しくてあまり家に帰って来なかったため話すことも顔を合わせることもなく、悲しいことにアルナは家族を失うつらさをあまり感じなかった。
父が亡くなったことにより目先のことしか考えない商人たちはアルバート家の傘下から抜け、その影響でアルバート家は権力、財力ともに低迷し中級貴族となった。親がそばにいないアルナは世話役のアンおばさんに面倒を見てもらっていた。アルナはおとなしく優秀だったので彼女はあまり口出しはせず自由に過ごさせた。またアンおばさんはアルナの父にかわってアルバート家のために商人とコミュニケーションを時々行い貴族の地位を守っていた。
「坊っちゃんは好きなように生きなさい」
アンおばさんの口癖だった。
親がいないこと、アンおばさんは忙しくあまり話ができないこと、それによりアルナはいつも独りだった。話し相手は森にいる動物だった。彼らは言葉を話すことなんてない。そのためアルナは幼いときから変わっていた。
アルナが7歳の時、父はまだ生きていたので上級貴族の子供が集まる小学校に通っていた。上級貴族の中でも力の優劣はある。それは子供のいじめに影響を与える。
「こっち見るなよ」
「触るなよ、菌が移る!俺は高貴なマラブート家の子供なんだぞ!」
「何泣いてるんだよ、みっともな!」
校舎裏、アルナは3人の名高い貴族の悪ガキが1人の子をいじめている場面にたまたま目にする。壁際からひっそりと覗く。軽く蹴られたり砂を投げられたりしている。
「やめてよ、僕は何もしてないじゃん」
「おまえの存在が目障りなんだよ!」
「何もしてなくてもおまえが悪いんだよーだ!」
親の命令、いじめてこいと。その家を潰すため。親たちの間で気にくわないことがあったのだ。
いつもの流れだといじめられた子の親は相手の親に文句を言いに行く。そしてそのときは反省したそぶりを見せるが、そんな気はなおさらない。いじめ続け、ついには他の貴族と連携してその家の階級ごと落とす。あらゆる裏の手を使って。それが今の貴族の社会だった。上の貴族に目を向けられると痛い目に遭う。下のものは常に上の機嫌を伺わなければいけなかった。
アルナはこの歳にしてそれを理解していた。だからこの光景を見て無性に腹が立った。ザザッと1歩踏み出す。1人の悪ガキがアルナに気づく。
「何見てるんだよ」
「いつからそこにいるんだよ!」
「、、、、、、、」
「ブツブツ何言ってるんだよ!」
3人がかりで5メートルぐらい離れたアルナに向かって走って行く。するとアルナは右手を前に出す。アルナは魔法を唱えていたのだ。黒い影が3人に襲いかかり拘束する。
「なんだこれは!」
「抜け出せね~!」
「放せよ、この黒いのが!」
3人は脱出を試みるがびくともしない。黒い影に気をとられているそのとき、3人は同時に恐怖を感じた。顔を前に向ける。赤い目を大きく見開き殺気をみなぎらせるアルナが歩き近づいてくる。みな青ざめる。アルナは動けない3人の間を通り過ぎ魔法を解く。3人はその場に倒れ怯える。アルナの背中を目にしながらその場を1人、2人と逃げ去って行った。アルナはそのまま歩きいじめられていた子に近づいていく。
「ありがとう、アルナく、、、、、」
「嫌いだ、、、」
そう吐き捨てその子を睨み付け、アルナは奥へ歩いて行く。いじめられていた子はアルナから得体の知れないものを感じ取り体が震えた。
アルナはいじめに対して腹が立ったのではない。醜いこの人間関係に腹が立ったのだ。いじめる方も、いじめられる方にも。アルナは人が嫌いだった。欲望ばかりに目を向けるその生物が。
このときはアルナは人に“愛”があるなんて知らなかった。愛情なんてもらったこともないのだから。
アルナは天才だった。いや、天才の中の天才だった。授業は全てさぼった。魔法の本を読んで。ただ、テストはいつも1番だった。そのせいでみんな彼を知っている。でも、彼の力を恐れていじめられることはなく、なんだか近寄りがたくて声をかけるものもいない。孤独だった。
父親が亡くなってアルナは転校した。その学校は前の学校と比べものにならないほど穏やかだった。相変わらず天才で孤独で近づきがたい人だったが、人なつっこいものはそんなアルナに話しかける。勉強のことを聞いたりアルナのことを聞いたり。前の小学校の時は人と同じ空間にいるのも嫌だったが、だんだんと人に慣れていき嫌いではなくなり、特定の人とは口をきくまでになった。でもやっぱり独りが好きだった。授業後森へ行くのが日課だった。
中学生活を終えアルナは興味のある剣と魔法が学べる学士院に通うことにした。ここは国の中と外を守る兵士になるための学校だった。アルナは兵士には全く興味はなかった。将来の夢なんてなかった。好きだからここを選んだだけだった。
この学士院に通う生徒は普通、苦労した。剣のみ優れているもの、魔法のみ優れているもの、2つともできるが他の数学や語学などが苦手なもの、試験は通ったはずなのになぜだか全てできないもの、、、全部ができるような天才の中の天才な人、アルナはまれであった。みなは苦手な科目の単位を取るのに必死だった。もちろんそんな雰囲気の中なのでアルナは目立つ。授業中の態度は小学生から変わらない好きな本を読むという悪いものなので先生の目にもとまる。まだ定期テストも行ってないためアルナが超天才だとは気づけない。先生は上の立場として力を示し、アルナの授業中の自由さをただそうとする。
アルナは昼食の時間いつも通り中庭の大きな木の下で独り本を左手に、右手にはサンドウィッチをもって過ごしていた。白い髪は風に揺られ赤い瞳はまっすぐ本を捉えていた。そこへ、男の魔法科の先生が近づいていく。そして唱える。
「魔力よ、引力に変えて」
アルナの左手から本は離れ先生の右手へ引き寄せられる。磁石のように。
「陽変化の魔道書か、相変わらず難しいの読んでるねえー」
先生は余裕な態度で本のページをペラペラとめくりながら文字に目を通す。
「何か用ですか?」
アルナは機嫌を悪くすることもなく尋ねた。
「君が剣術の授業以外ずっと本を読んでいると先生たちが言うからね、注意しに来た。まあでも僕は魔法の本ならいいと思うんだけど、、、そうだね、じゃあ先生からこの本を取り返せたのなら、、、、」
話し終わらないうちにアルナは唱える
「太陽は止まり時間の流れは呼吸を止める我が意志のもと舞い戻れ、テンプス」
先生の右手にすでに本はなくアルナの左手に戻されていた。本の時間だけが戻りアルナの左手に元のように収まった。彼は無言で先生を見つめた。
先生は戦慄した。この歳で、しかも独学で普通の型ではない特殊詠唱魔法を使えることに。彼にかける言葉はなかった。おそらくどの魔法科の先生よりも実力は上をいっている。
「君は特別だ、、、好きに過ごしていいよ。」
彼の言動から余裕はなくなっていた。先生は恐る恐る立ち上がり、去って行った。アルナはまるで何事もなかったかのように本を読み始める。
そして先生は夜、お酒を片手に「俺はだめだーーーー。天才はいいなーー。」と涙目で嘆いていた。ちなみにまだ独身。幸せになることを願います、、、。
奇才、アルナ・アルバートは全科目の合計点数を首位で1年生課程を終えた。サボっていても首位なので、どの教師も文句のつけようがなかった。そして2年生、2年生からは授業後決まった3年生に付き添い剣術の鍛錬を行う。仲間の大切さを学ぶため、強い技術を先輩から得るため、互いに教え合うことを学ぶため。できるだけ同等の実力のものとペアとされる。アルナの剣術の成績は、初めての対人戦であったため首席ではなく次席だった。それは第1グループ、首席から3番目までの順位に含まれる。よって、3年生の第1グループの人とくじ引きでペアはきめられた。
「よろしくな、私はローナ・クアトロだ。」彼の付添いの先輩は剣術の成績3番目の女性、ローナ・クアトロだった。
「アルナ・アルバートか、アルアルと呼んでもいいか?」
ローナは少し変わっている、そして浮いている。
「気持ち悪いのでやめていただきたいです。」
アルナは真顔で言葉を発する。
「そ、、、、、そうか、、、、。」
ローナには痛手だった。「恥ずかしいです。」とか「いいですね。」とか「何ですかそれー!」などを期待していたのにあまりにもストレートな答えが返ってきたから。静かで寡黙な後輩と元気で活発な先輩という正反対のペアができたのだった。アルナはペアなんて必要ないと思っていた。くだらないものだと。でも、このおかげで彼は人間の見方が大きく変わり、そしてアルナ自身も少しずつ変化していく。
読んでくれて誠にありがとうございます。
暇なら「形のない約束」という長編を書いているので目を通していただけるとうれしい限りです。
おそらく明日続きを投降します。