8話 それぞれのやりたいことを
「随分と派手にやられたな」
「うん。まだ開店開始は先になるかなぁ……」
俺とリュミナは店の復旧作業に取り掛かっていた。中には手伝ってくれる人達も少々。
とりあえず、道のど真ん中に木の破片だったりガラスの破片が散乱しているとなると邪魔なので、それらを拾っている時にふと思い付いた。
「なぁ、提案があるんだが良いか?」
「どうしたの? 提案?」
「この際、店の外見、及び内装をリニューアルして、もっとお客様に寄り添う形で入りやすくする。なんてのはどうだ?」
口を開けたままポカーンと若干放心状態になる。その後、無言で近付き、俺の両肩を手で掴むと、目を輝かせて言った。
「それいいね!!」
「という事で買い出しにでも行こうと思うんだが……」
ここで肝心な事を思い出した。俺は金が無い。リュミナも一人で生きていく分の金しかない。つまり壁の復旧作業も改装も不可能に近い状況にある訳という事だ。
「……」
結局、この件は後回しだな。今は壁や窓をどうにかしないと。
「どうしたの? 随分と派手に壊しているみたいだけど」
ガラスの破片やらを回収していた時、上から声がしてきてきた為、顔を上げる。
「まあ……通行の邪魔になっているようなら本当にすまない」
一瞬髪の毛が少々短く、男だと思ったが、多少の胸の膨らみといい、それらしい声といい、女性か。それにしても随分と魔導師チックな服装をしているな。
「あっ、別にそう言う訳じゃ無いけど……もし、良かったらだけど、修復作業僕も手伝おうかなって。魔法でね」
「良いのか!?」
俺は咄嗟に立ち上がる。
「うん!! 僕、こう見えても強い部類の魔導師なんだから!! じゃあ、必要な物はその瓦礫や破片かな。持ってきてくれたら修復するよ」
「わかった、協力感謝する」
「礼には及ばないよ。困った時はお互い様ってね」
俺はじーっとこちらを見ているリュミナのに近付く。
「……誰? あの人」
「知らないがどうやら手伝ってくれるとの事だ。集めた破片やらを貸してくれれば良いんだってよ」
「この街にも貴方以外に親切な人もいるんだね」
「俺以外に親切な人なんて多く居ると思うが……」
そう言って、リュミナと俺が集めた物を持っていく。
「ようし!! じゃあ始めるよ」
その女性はローブの下に手を突っ込み、その中からワンドを取り出す。もうこの行程だけで驚きを隠せない。
そして、すぐに詠唱が開始された。特に読み取れはしないものの、そういうものだとだけ理解しておこう。
「……はい!!」
さっきまで壊れていた壁はまるで何も無かったかのように、まるでお化け屋敷のような外見に戻っていた。
「本当にありがとう。手伝ってくれた人も感謝するよ」
「ありがとうございます!!」
俺とリュミナは深く頭を下げた。
「いいのいいの。言ったでしょう? 困った時はお互い様って。いつか私が助けを求めた時はよろしくね? ま、そんな事があるとは思えないけど!! あっはっは」
軽快に笑いながら歩いて行ってしまった。それに何かを要求するでもない。人間の鏡のような人だったな。
それにこの街の人達は意外と良い人が多いようだ。
「凄い……」
いとも簡単に直った壁や窓を俺らはじっと見る。
「これで一応店は再開できるな」
「うん!! じゃあ早速……」
リュミナが掛けてある板を裏返しにし、開店中を表す。
思わぬ手助けに本当に救われた。魔法を習得してみるのも悪くなさそうだな。
「さあ!! みんな!! 営業開始だよ!!」
リュミナがそういうと手伝ってくれた人達が歓声を上げる。客として来店してくれるようだな。
そういえばこの先のこと考えていなかったな。このまま店の人でもない俺が一緒に居ても良いのだろうか。ここは格好良く立ち去るべきなのだろうか。
「来ないの?」
「あぁ、後は自分で出来るか?」
格好を付けたいだけじゃない。この世界のことや、俺のこの1Lv上がる度に増える能力のこととかな。
それにそもそも俺に店の経営なんか分からないしな。もう少しその可愛い顔を見ておくのもいい気がするが、此処は異世界だ。この街だけに留まるのは少しばかり勿体無い気もする。
「分からない……うぅん、出来るよ!!」
「それなら有難い」
「えへへ……でしたら最後に名前……聞いても良いですか?」
なんだか、めちゃくちゃに可愛く思えた。いや、この瞬間、この笑顔が一番愛らしくて。撫でてあげたくなる程に。
「あ、あぁ、そういえばまだだったな。俺の名前は秋斗 幸磨って言うんだ」
「秋斗 幸磨?」
「そうだな」
そういえばこの世界ではこんな感じの名前は珍しいのか。
「必ず立派な武器店にしてみせます!! それに私は幸磨さんの専属スミスだということを忘れないでくださいね? 他の武器に浮気しないでくださいね!?」
「あぁ、大丈夫だ。これ以上の武器はない。そちらも頑張れよ」
「はい……」
どうせならリュミナと共に旅をしたくも思ったが、リュミナにはこれから鍛冶屋や武器屋としての仕事が忙しくなるはずだ。連れていくだなんてこと出来ないだろう。次会うときはどういう時なんだろうな。
「武器をありがとうな」
「こ、こちらのほうがいっぱいありがとうなんですよ!?」
「なんだよそのちょっと変わった言葉。さあ、客が待っているぞ?」
「……はい!!」
こうして俺達はそれぞれ、やりたいことを行動に移した。