4話 経営は厳しく、甘くない。
「あの、その銃もおまけしちゃおうかな……?」
「……本当か!?」
銃を元あった場所に戻していたその時、後ろに居たリュミナが口を開けた。
「で、でもね? うーん……」
歯切れが悪いな。そりゃあ確かに武器を一本、更に何故か自分を売ってしまったわけだからな。しかも最後のやつに至っては自ら望んだようなものだからなぁ。何考えているのか既に分からない。単なる感謝のようなものだと思われるが、それにしても度が過ぎているような。可愛いからと言い、流石に見過ごすことが出来ないような……。
「ちょっとその銃は気を付けた方が良いかもしれない……」
「どういう事なんだ?」
「過去にその武器の試し打ちをした事があったんだけど、その時弾はしっかりと入っている筈なのに、どういう事か出なかったんだ。でも構造的には可能な造りだから、少し不思議っていうか……製作したときに魔力を多く含む金属を使用したのが原因だったと思うんだけど」
だからステータス上昇効果にも魔力系に関係するものが多かったからな。
「不良品なのかな……?」
「不良品を何故置いているんだよ」
「スリスリしたくなるぐらいカッコイイから!!」
そういえばさっきもそんな事を言っていたな。
「それに、誰も入店してきてくれないしね……えへへ」
まあ、あんな外装していたらお化け屋敷かなんかだと思われるだろう。俺だってそう思った一人だからな。
実際そういうのも兼ねて、客が来ないのだろうけど、実際で言えばこれ程までにステータスの変動が起こる武器なんてものはあるのかと疑いたくなる程だ。
「少し値段が高すぎますかね?」
「ほう、これはどれ程の値段なんだ?」
「単純に原材料だけなら……相当かなぁ」
結構真面目に首を傾げているのを見るに、本当に相当行きそうである。
「うーん。金銭的な事は本当に適当なんだけど、上質奴隷一人が金貨十枚だから……金貨八十枚ぐらいかなぁ」
なんだその奴隷算!? 原材料が既に命八個分なんだが!? そんな重々しい計算されても……。
「で、これに私の遺伝的能力である鍛冶の神得の効果で相当良いものに仕上がっているから……金貨百枚位ですかね?」
三桁!? 前提みたいなので奴隷が上げられているのがまたなんか重々しい……。
それに……リュミナの作った武器以外を見ていないからなんとも言えないが、レアリティの欄が十星なのはその能力、鍛冶の神得というものが関与していそうだな。
「ちょっと自慢してもいい?」
腕を組み、少し胸を張り、これから私、ドヤ顔します。と言わんばかりの表情を浮かばせる。
「あぁ、聞こう」
「この能力を持っている人、なんと全世界何処を探しても私と私の一族だけなんですよ!!」
物凄い歴史あるドヤ顔だった。
「じゃあ何故売れないんだ?」
「……高すぎるからですかね?」
「そりゃあ、まぁそうだろうな」
店の外装は酷く、値段は高く。もし誰か此処が武器屋だと分かり入ってきて貰っても買わずのまま、帰ってしまう場合が多いだろうな。
「なぁ、一つ気になったことがあるんだが良いか?」
「なんでも聴いてください」
そもそも客が居ないなら利益は生まれない。生まれないところからどのようにして回して居るのかが不思議で仕方がないんだよな。
「どうやって今まで過ごして来れたんだ?」
「……言わないといけませんか……?」
まさか未知の領域、足を踏み入れ手は行けない範疇だと言うのか? まさか自分のその魅力溢れる身体を売っているとかだろうか? それなら可能性としては充分あるが……。
「その……ですね。しっかりと話さないといけないとは思っていたの、大丈夫です」
深く深呼吸をして、吐く。その一連の動作をする度に胸はプルンと揺れているのがもう我慢し難い。
「実は私。亡くなった両親の肩身とも言える高価な加工用鉱石を売ってお金にしていました」
……売っていたのは身体ではなく、肩身だったようだ。御両親は既に亡くなられているのか。これは悪いことを言ってしまった。
「あ、あの、気になさらないでください!! 私が勝手に話したことなので!!」
此処はリュミナの為にも、同情するのは控えて置こう。いや、実際には本当にそうするしか無かったような事態だと思うから、決して間違ったことでは無いと言えるが。
「なぁ、安い鉱石での武器って言うのは作っているのか?」
「は、はい……一応あのコーナーに」
リュミナが不思議そうにその武器らが置いてある場所を示す。
「よし、じゃあ一本レンタル、良いか?」
「レンタル……?」
そういえば此処は異世界だ。俺がいた所で通じたこともここでは一切通じない場合だって多くあるだろう。
「あ……えっとだな、貸出みたいなもんだよ。貸し出した時間分の料金を支払って貰うっていう感じの」
「その方法、良いですね!!」
「そうか?」
特に俺自身の知恵では無いが……。
「とりあえず……」
無造作に入れられた剣の一つを触り、ホログラムを表示させる。表示されたものは、長剣、HP上昇、防御力上昇。レアリティは七星。
初めての七星だ。それも比較的お求め頂き易いとされている鉱石で作った武器だと言う。
すぐさま、今手持ちに最初に選んだ剣、その次の狙撃銃、今選んだ長剣を持った状態でステータス画面を見る。すると、攻撃力、瞬発力、洞察力、魔力、魔法攻撃力しか上がっておらず、この両手剣を所持した段階で得られるHPと防御力は微塵も上がっていなかった。
反映されるステータス上昇量って言うのはどうやら五つまでが限度のようだな。
「どうしてその武器を?」
「まぁ、実際にはなんでも良いんだが、こう言ったお求め頂き易い剣が必要かなって思ってな。あぁ、あと拳銃も良いかな?」
棚の上で、今度はキッチリと揃えられた拳銃の一つを手に取る。現れたホログラムには、拳銃、魔力上昇、魔法攻撃力上昇、攻撃力上昇。レアリティは八星。
八星から上昇量が二つから三つになる感じか。あの狙撃銃も何故か二つだったが、あれは別の珍しい項目があったからだと言えるだろう。
「別に良いけど……何に使うの? どっちもそこまで……」
「ちょっと良いことを思い付いたんだ」
俺は貰った方の長剣と狙撃銃を置き、別の長剣と拳銃を手に持つ。
ステータスの上昇量は八角形の上付近位だが、それでも充分だ。充分過ぎる程と言えるだろう。
「深刻な経営不振を建て直す方法をね」