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虐殺の転生者  作者: 鼻眼鏡26号
7/7

6話



避けることには成功した。

これは大きな一歩であるが相手は遥か先にいる存在。一歩で追いつけることのない距離だった。


そしてなによりも。



「だぁ〜…クッソ!…当たらねぇ!!」



当然だが、目を瞑っては相手がどう避けるか見ることも出来ず攻撃が当たるわけが無い。

さらに言ってしまうと



「…ッ!いてッ!」



避けられる確率も決して高くない。

新しい事は一発で物にできる筈がない。

だからこそ、人は血反吐を吐くように練習して実践してそれを自然に行えるように練習するのだ。

思いつきだけで、勝てる世界では無い。

それが可能なら、この世にはもう転生者はいないだろう。戦争なんて無くなるだろう。


幸い、ルビアはラナンの攻撃は致命傷になる攻撃をギリギリで避けて無事でいるが、ルビアの攻撃はユイトの体に少しずつだが、ダメージを蓄積させていた。

長期戦になるとユイトは確実に負ける。

それがわかっているからこそユイトは焦る。



「あまり…話すのは苦手なのだが。貴方を倒す前に言っておこうと思う。」



「へ?」



ルビアの急な言葉に戸惑い変な声が出てしまった。

にしても、その内容が勝利宣言だと動揺はするだろう。



「今の君は弱い。……力があろうと扱い方がなってないから赤ん坊に武器を持たせただけと同じで、しっかりと学んできた私に敵う道理はないよ。」



正論だった。正直言い返したかったけど。言い返せば恥をかくのは目に見えるほどの正論だった。

けれど、その正論は俺にある事を思い出させた。


それは5年ほど前の出来事であった。








「ヘブッ!!……めっちゃ痛いんだけど。」



「も〜ユイト。なんで教えた通りにやらないの。」



地面にヘッドダイブするように投げられ鼻を地面に打ち付けられた俺。そして、俺を投げたマナ。

互いに柔道着を着て柔道場の真ん中で俺はマナの一方的なフルボッコを受ける。

全く持って歯が立たず一方的に俺は投げられる。

マナの合気道が俺の大振りの攻撃を流してその力を利用し俺を投げる。

先ほどから同じ事が繰り返し繰り返し行われてそろそろやる気も失せてきた頃。



「うーん、ユイトはガンガン攻めるタイプじゃないんだから。大振りでどうせ当たらないんだから、守りを頑張ってみてよ。」



「え〜、一発ノックアウトがいい。守りとか我慢すんの集中が続かないしさ。」



「もう騙されたと思ってもう少しやってみてよ。一緒に手伝ってあげでるんだから。」



大の字で寝そべる俺にマナは手を差し伸べ、俺もそれに答えるかのように掴んで起き上がる。

その半年後に、俺とマナは暴行事件により互いに武道の場から離れた。マナは暫くしてからまた入り直したが、俺はあの後から一切何もやってなかった。



そんなただ一つの思い出。

でも、短い思い出は俺を奮い立たせるには十分だった。

なんてったって、マナが俺を助ける為に思い出させてくれたから。(思い込み)

マナが俺を応援してくれているんだ。(思い込み)

たがらこそ、俺はマナの為に意地でも勝たなきゃいけない。



「……まぁ、ここから不思議な力が出て逆転するなんて期待するだけ無駄だってわかってる。」



ゆっくりと構えの姿勢を取り視線はラナンを見つめる。

その構えを見た瞬間にルビアは気づく。



(奴の雰囲気が変わった。)



先ほどとは違いその構えが慣れているのが、一目でわかった。

なぜ今まで隠していたのか疑問はあるが、それ以上にその構えから何が起きるのか、ルビアの闘争心を燃やしていた。



「でも、マナが思い出させてくれたんだ。戦い方を。」



構えるユイトの目にはハイライトが消えていた。

その目を見た瞬間ラナンは鳥肌を立て圧を感じた。



「………」



「………」



しかし、ルビアがいくら待とうがユイトは動かない。

そして、最初の対峙とは違いユイトは隙だらけでそれが逆に手を出すのを躊躇わせた。



「……?…来ないのか?」



「……」



「…じゃあ、俺がそっちに行ってやるよ。」



ユイトは一歩前に出してゆっくりと歩いてくる。

ルビアは、ユイトに対して恐怖は抱かないがその歩みに圧を感じて体が締め付けられるように感じる。



「……シッ!」



ルビアは、締め付けられるような圧を感じながらも動き出し隙だらけでどこを狙っても良いが、レイピアの先はユイトの真正面の右肩を狙っていた。

しかし、攻撃の最中にルビアは気づいた。

なぜあれだけある隙の中で右肩を選んだのか。


ルビアはレイピアを使った型をいくつも習得しておりその中でどのタイミングでどの型を使うかは、反復練習の中で体に染み込ませて自然と扱い的確なタイミングで使えるようにしていた。

この攻撃も体に染み込んだ攻撃動作で、最も最適な攻撃方法を行い狙いも()()()()()()()()()()()()


そう()()()筈なのだ。

レイピアがユイトの右肩に当たる瞬間、ユイトはほんの少しだけ体を動かしレイピアの先端を直撃するのではなくほんの少しだけ掠らせて、一直線に進むレイピアの動きをずらした。

ルビアの動きは、ユイトに向かって真っ直ぐ進む力は止まらず、段々とユイトの体に近づく。

その近づく刹那の瞬間で、ユイトは慣れた動きで体の軸を支点に半回転し背中をルビアにくっつけて地面にヒビが入る程踏み込んだ力で、ルビアを押した。


作用反作用の力と同じく、壁を蹴った力が強ければ強い程体に帰ってくる力は大きくなる。


ルビアは、自身の向かう力とユイトの地面にヒビが入る程の押す力がぶつかり合い、ルビアは地面に足が付いておらずユイトは地面からの力を使っているので、当然ルビアは力負けた。


受け身の取れない空中でルビアは力を受けて吹き飛んだ。



「……ぐッ!」



地面に2転3転と打ち付けようやく止まるが、立つ力がなくレイピアを杖代わりに使いギリギリ立ち上がっている状況だった。



「ハッ!」



それほどの隙を見逃すほどユイトは甘くは無かった。

地面を蹴りルビアのすぐ近くまで迫ると、ルビアのレイピアを右足の蹴りで折った。



「あらよっと!」



レイピアを折った下段の蹴りの後、その勢いでルビアに背中を向けた状態から片手を地面につけてバク転し、同じく右足でルビアの頭上から叩き落とした。

うつ伏せ状態で、沈黙するルビア。

俺は反撃を考えその場からすぐさま距離を取る。


十分な距離をとり一息をつく。

ひとまず、マナとやっていた練習は無駄ではなかった。

俺が行ったのは、相手の狙いの一点集中である。

最初に行うのはもっとも大きな隙を作る場所を決めてそこだけを相手に意識を持ってくるのだ。

しかし、一点のみだと相手も警戒してしまう為。他の場所も適度に狙いやすくするのである。

この戦い方は相手の動きが速ければ速いほど効果を発揮する。

相手の動きが速ければそれほど考える時間も短くなり狙う場所も本能で反応してもっとも隙のある場所へと誘導されるのだ。手品師やマジシャンが行う視線誘導と同じ手法である。

ユイトはこの視線誘導で相手の攻撃を限定させて防ぎ反撃を返す型として習得していた。


だが、ユイトも未熟な故これには弱点がある。

もしも、相手が構える前から攻撃を決めていたら反応が出来ないのである。



「……消えないって事は、まだ意識あんのか。」



ルビアは、うつ伏せ状態の沈黙を続けていた。それはまだ意識を失っておらず勝負がついていないのである。



「気は進まないが、とどめは刺さないとな。」



ユイトは歩みルビアの元へと向かう。

何もない平原には2人しかいない状況で邪魔する者はいない。

ルビアの元に着いて寝ている頭に狙いを定め足を上げる。


その時、ユイトの頭にある光景が浮かんだ。

忘れもしない。人を始めて殺めて最愛の人を亡くした日のあの時と同じ光景だった。

嫌な記憶で思い出したくなかった。あの時はマナを失った悲しみ、108番に対する怒りがあったからこそ紛れていた、人を殺めた罪悪感に恐怖の感情が体に現れた。


俺はそもそも何のために戦っているんだ。恨みのある転生者は直接この手で殺した。それには後悔していないし後腐れも感じない。

ならば、その後はどうする?マナを失い悲しみそのマナからもらったこの命だ。わざわざ死にに行く必要はあるのか?


色々な思考が頭の中を回りあの日の光景が目の前にあり足元には頭が潰れた転生者108番が転がっていた。



「…うっぷ……おええぇぇぇ」



ユイトはその場から離れた場所で腹の中のものを吐き出す。

それと同時に、殺したという事実が罪悪感として体を締めつけ震えさせた。


平和な国で育ち父と母を亡くしたが、普通に生きてきた20年。そのまま何事もなく暮らせば見ることのない光景だった。

今まで流されて戦う事になっていたが、俺にはそんな覚悟なんて最初から無かった。



「わかるよ…あなたの気持ち。」



その声は小さいはずなのに俺の耳にはよく聞こえた。

振り返ればルビアは立ち上がっており、その目は悲しみを表していた。

先ほどまで戦い痛めつけていた相手に対して彼女は、一切の怒りを見せずユイトを見る彼女は悲しそうであった。



「私もあなたと同じだったから。」



ルビアは、ゆっくりと目を閉じた。

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