5話
それは一瞬だった。
俺は一瞬たりとも気を抜かず拳を構え互いに動かなかった。にもかかわらず集中力が長く続かず散漫になってしまった一瞬をルビアは見逃さなかった。
地面を蹴る足元は、その足跡を残し離れていた相手の懐まで入り込みレイピアを腹の中心を突きユイトはその一点集中の威力に体を曲げてくの字になり一瞬だが地面から足が離れた。
その威力は先ほどの兄弟の攻撃よりも早く的確で威力のあるものだった。もしもレイピアが本物であった場合、貫通は免れないだろう。そもそも木製でも貫通するだろうが俺の体はそんなことにはならなかった。
正直なところさっきから疑問だったのだが、明らかに俺の体が捕まる前より強く強靭になっているのが実感できた。しかし、それを実感できても考えるだけの隙を彼女は与えない。
地面に足を着いた瞬間目の前を見るが、そこには誰も居なかった。そう思っていると次は右から肩に強い衝撃を受けた。今度は耐え切る事ができたがすぐさま肘や膝などの関節に対しての攻撃が連続して突かれる。防御の姿勢で顔を腕で隠して守るが彼女のレイピアは正確に肘や肩を突いてくる。
やられっぱなしでいられないため、左足に力を入れて地面を蹴り防御姿勢のままタックルをするが一向に当たる気配がなく避けられたと思い裏拳で一回転するも空振りに終わる。
「………くそッ」
ルビアを見つけるもかなり遠くに居て思わず声を漏らした。
「……………」
彼女は何も話さない。
しかし、目線だけはこちらを見ている。
力量差は嫌というほど分かっている、俺は力を持ってはいるが技術が無いに対してルビアは、力も技術も最高峰に近いレベル。どう足掻こうがこれだけの差はこの短時間に埋まるはずはない。先ほど「さっさと終わらそうぜ」なんて言った自分がまさに終わる方に居るとは情けない話である。
「……焦るな。…焦ったところで変わらない。考えろ。」
自分自身に念じるかのように呟く。
いまの段階で必要なのはルビアの攻撃を避ける事だ。それを可能とさせるには1番最初のあのゆっくりとなっていた感覚を掴む事だ。
この試験開始と同時にものすごい勢いで走り出した彼女はその威力だけで人を吹き飛ばした。
だが、俺は違い突然の出来事であったが地面を殴り腕を埋めその場に固定して難を逃れた。
問題は対策して難を逃れた事ではなく、その時の感覚は全てがゆっくりと動いていた、という事である。
「……ぐッ!チクショウッ!!」
考えてる最中だが、ルビアにとって絶好の隙であるので右腕の肘に突きを受けた。
近づいて来たので反撃するもまた距離を取られた。
距離を取るという事は、俺の攻撃が当たるとまずいと分かっているからであるのが予想できる。
だからこそ当てさえすれば勝機はあるのだ。
さて、続きだがゆっくりとしていた感覚の時に俺は〝避ける”という事、その一点だけを考えていたのが思い出せる。だが先ほどからよく見て避けるということを考えて試すもいい結果が出ない。
人が見てから動き出すまでの、信号伝達は最速で0.1秒で俺の強化された肉体はその速度であるはずなのだが、それでもルビアの攻撃は避けられない。
「………ん?そう言えばよくヒーロー映画で第六感的なやつあるけど……あれ出来んじゃね?いまの俺なら。」
突然思い出したのは、ヒーロー映画の第六感。あれはほぼ未来予知に近いが、避けるには最適な感覚だ。
確か、あのヒーローは
「……スゥ〜…ハァ〜…」
深呼吸から目を瞑り全神経を集中させた。
「………ハッ!」
その動きは突然だった。
俺は、体がざわつくのを感じた。それもピンポイントで左肩の正面が狙われたのを感じ取った。
その感覚は次第に大きく感じて当たると頭で理解して左足を後ろに下げて上半身もそれに合わせて左肩を後ろに逸らす。小さく最小限で動くついでに右手で、ルビアのレイピアも弾く。
この小さな動作でついにルビアの攻撃を避けることに成功した。