3話
あの後係員に連れられて部屋で待機させられている。助けてくれたあの人たちにお礼を言おうとしたが彼らは、
「まずは試験に受かってからだ。我々の仲間になったその時に改めて自己紹介をしよう。健闘を祈る。」
と黒人の男性が言ってくれた。
あの人見た目通りですごくいい人だった。
まぁ、誰かが期待してくれるのならその期待には答えないとな。
『桐生ユイト様…案内の者が試験会場へ案内をしますので今しばらくお待ちください。』
控え室に響いたアナウンスの通り俺は、控え室の椅子でくつろぐ。
………しかし、いくらくつろいで待っても一向に迎えがこなかった。そんな間に色々と考えてしまう。既に試験は始まってしまっていて、これも何かの試験なのでは?どこかに隠しカメラがあり俺の事を監視してるのでは?と考え出したら止まらず椅子から立ち上がったその瞬間に。
「す…すみませ〜ん!!お…遅れてしまいました〜!!」
ドアが勢いよく開けられて小柄で桃色の髪をした女性が涙目で入ってきた。
「よかった。…案内なしで試験開始かと思いました。」
「す…すみません、試験監督なんて初めてで、緊張で道に迷ってしまいまして。……ハッ!申し遅れました今回試験監督の1人、アリシアと申します。」
「桐生ユイトです。よろしくお願いします。」
「それでは、大変申し訳ないのですが早速試験会場に案内しますので着いてきてください。」
彼女の言われるがままに俺はついて行き廊下を歩く。
その彼女も白いコートで背中にはⅣと書かれていた。
着いていく中で俺は先程から疑問だった事について聞くことにした。
「そういえば、皆さんかなり日本語が上手ですよね。…やっぱり世界を回ってますし勉強とかするんですか?」
「いえいえ、勉強なんてさっぱりしてませんよ。私達の着ているこの隊服に特別な魔法的なファンタジーな力が宿っているそうで、相手によってその言語に翻訳されるようになっているんですよ。」
アリシアは、凡そ企業秘密であろう内容をペラペラと喋っている。大丈夫か?と思うが言うのも野暮だろう。
「時代と状況が違えば画期的な発明ですね。」
「ほんとですよね〜他にも沢山ありましてーーーっと、試験会場に着きましたのでお話は合格してその後の説明会で。」
話が途切れてしまってもっと聞きたかったが、合格すればもっと知ることができるだろう。
「ありがとうございました。頑張ります。」
アリシアに一言お礼を言って俺は試験会場の扉を開ける。開けた先には既に胸に1のバッチをつけた人が3人と白のロングコートにⅤと書かれた髪を七三分けの眼鏡をかけたいかにも真面目を体現した人が1人いた。
「アリシア!貴様また遅刻か!!」
「す…すみませーん!!部屋が多すぎて迷いました!」
「貴様は三年目だろうが!!さっさと位置に着かんか!!」
「ヒィィィ!!」
「……なんだこれ。」
アリシアは怒鳴られ走り去って行き俺はポツンと取り残された。
「お前は、桐生ユイトだな。」
「はい」
眼鏡七三分けは俺の前に立ち手に持っている名簿のようなものと俺の顔を交互に見る。
「確認が取れた…では、これより入隊試験を行う。転送装置を起動しろ。」
その言葉と共に光が俺らを包み次の瞬間には別の場所に立っていた。
そこは、広い草原に俺ら4人だけが取り残された。
『諸君…そこは我々が管理する場所であり世間一般には知られていない場所だ。力を存分に発揮するといい。』
突然目の前の空中にプロジェクターのように映し出された先ほどの七三分けが話し出す。
正直な話、俺に何にも説明が無いのはあちらの不手際だよな。他の3人も誰も自己紹介しない奴らだし。まぁいいけど。
『これから行う試験だが、合格者は1人だ。例外はない。合格条件はあの山の頂上に旗があり、その場に他の参加者が戦闘不能状態で到着することだ。』
画面に出されたポインターが正面にある山を指しており、どうやらあの場所を目指せばいいのだろう。
他の参加者もそれを聞いて互いを一瞥して品定めをしていた。
参加者は3人、男2人女が1人
男2人は同じ顔をしており黒髪で雰囲気だけでいかにも意地の悪そうな顔をしていた。双子なのだろうか?
女は、絵に描いたような美人で金髪で先程俺らのことを一瞥したらずっと山を見ている。
『尚、戦闘不能になった時点で敗者は転送される事となっている。そして、武器の使用については各自が今持っている武装のみとする。』
始めに言ったことは正直どうでも良いが、問題は後半だ。
「明らかに俺が不利じゃないですか?ここに連れてこられたのだってついさっきだ。」
1時間もしないで監獄から訳のわからないところに連れてこられて試験で戦えなど、俺は明らかに不利であった。
『戦場では何が起きるかわからない…自身の扱う武器がなければその場にある物を使うまでだ。甘えた考えはこの場で捨てろ。』
「あっそ……まぁこっちは試験を受ける側だ。従いますよ。」
正直不満であるが、立場としてはこっちが低いのは目に見えた事だ。ここは従うしかない。とりあえずアイツはいつか殴ろう。
『それでは、注意事項はここで終わりとする。それぞれ各自でスタート位置につきなさい。』
俺はその言葉を聞き地面に引かれた線についた。3人も同じく横一列に並ぶ。女は山を凝視していたが、男2人は目線だけ俺に向けていた。
『制限時間無し、決着がつくまで行う事。それでは………開始!』
ドンッ!
開始の合図と同時に爆風が俺を襲う。この爆風は俺だけでなく男2人も吹き飛ばされた。
俺は咄嗟に地面を殴り腕を地面に固定したお陰で吹き飛ばされなかったが、正直色々と驚いていた。
この爆風の正体は、彼女でだった。彼女は開始と同時にただ地面を蹴っただけであった。それが今の爆風を起こした正体であり、蹴られた地面はかなりの深さに抉られていた。
そして、俺はその一瞬の出来事を、その姿を見えていたのである。
「よいしょっと…早いなあの人。」
地面から腕を抜いて自分の腕についた土を落とす。それと同時に自分の腕を見ると獄中生活であまり栄養が取れていない上、座ったままで筋肉が落ちていると思っていたのだが真逆で信じられないくらいの力がみなぎっていた。
「……怪しい薬でも打たれたのか?…うおっと」
腕にあるかもしれない注射痕を探していると、背後から気配を感じてその場にしゃがみ込んで避ける。
その気配の正体は目の前を見ればすぐにわかった。
「チッ……避けやがった。今ので寝とけばよいものを。」
「次行くぞ。…連携5番だ。」
「おう!」
兄弟はすぐさま動き出しそれぞれが左右に分かれて挟み撃ち状態になって、1人は顔に向かい蹴りを、もう1人は足へのローキックを放つ。
それに対して俺は、ただ足に力を入れてローキックに耐えて、顔に向かってくる蹴りを掴み受け止める。
「なっ!?…なに!」
「こいつ、どんな脚力してやがる」
そんなに痛くなかったローキックに耐えて立ち続ける俺の姿を見て兄の方が驚愕の顔をしていた。
その隙に俺は掴んでいる足を引っ張り、兄の身体を軽々持ち上げ地面に居る弟に叩きつけた。その際、少し地面が凹んだ。
「ヤベッ…少し強くやり過ぎた。」
この言葉が自然と出るくらい俺は今不思議な感覚に陥っていた。普通だとこんな地面を凹ますほどの力も持っておらず先ほどの兄弟の蹴りで俺はノックアウトするはずだったのだが、このような動きに一切の迷いがなくこれが出来て当たり前のような感覚で自然と動いていたのだ。まるで何年もこの体でいたかのようなそんな感覚であった。
「こいつら、気を失ってるかな?大丈夫かな?」
先程からピクリとも動かない2人に俺は不安になる。
しかし、そんな心配も杞憂に終わった。
2人はゆっくりとだが立ち上がる。しかし、彼らは先ほどの攻撃が効いたのか呼吸が早かった。
「クッ………まさか…連携が通用しない相手がいたとは。」
「まったくの計算外だ。」
攻撃が効いていたにしてもこの耐久力はなんだろうと驚きが強かったが、まだ戦いは終わっていない事に気づきすぐに構える。
2人は先ほどと同じく左右に分かれタイミングを合わせて攻撃を繰り出す。
だが、俺はその攻撃に合わせて蹴りにはその上から蹴りを、拳には叩いた上で逸らして体を寄せて地面を踏み込む力で体当たり。
2人のコンビネーションは一朝一夕で出来るものでは無い。およそ長い年月で作り上げたものであろうが、相手の動きがゆっくりに見える今の俺には通用していない。
本来は片側に相手している時にもう片方が攻撃で相手に攻撃の隙を与えないのが彼らのスタイルなのだろうが俺はそれらを全て捌いた。
彼らもそれが分かってからすぐに変えてきて正面に来て手数を増やし攻撃を始めたのだが、それらも全て俺は捌いた。
「クソッ…クソッ…クソッ!!」
おそらく兄弟の兄の方が悪態をついたその瞬間に、兄の拳を掌で受け止めて掴みハイキックを顔面に叩き込み吹き飛ばす。兄が飛ばされて驚き止まった弟の腹に肘を叩きつけ地面を踏み込みその力で相手をくの字にさせて吹き飛ぶ。
吹き飛んだ兄弟2人は今度こそ起き上がる事なく力なく地面に倒れていた。