火と氷のランデブー! 炎の矛と氷の盾! 二つ合わされば無敵に見える!?
双角獣の全身から炎が立ち上った。ヤツは一個の火球と化した。火球が猛然と突っ込んでくる。
「スタリオン、離れろッ!」
俺の叫びに一角獣は、焼けることなく残った森の中へと姿をくらました。もう一角獣を気にかける必要はなくなった。後はヤツとの勝負に集中すればいい。
火球にどうやって対処するか? 正面から斬りかかるのはダメだ。正面から向かってくる物体は距離感が掴みにくいし、リスクも大きすぎる。ここは闘牛士のやり方でいくしかない。要は余裕を持って避けつつ、いけそうな時だけチクリと刺す、的な作戦だ。正直、闘牛士には詳しくないので、このやり方が闘牛士らしいのかどうかはわからない。
突っ込んでくる火球をかわしつつ、火球に向かって剣先をかすらせた。これがどの程度のダメージを与えているのかはわからない。が、今はそうするしかない。ローリスク・ローリターンの戦法を取って、慎重にやるしかない。死んだら元も子もない。
ヤツは怒り狂い過ぎて冷静さを欠いているせいか、馬鹿みたいに何度も突っ込んでくる。芸も工夫も何もあったもんじゃない。俺としてはその方が楽でいい。何度もやっていると感覚、タイミングが掴めてくる。その内に勝機が出てくるはずだ。
突っ込んできてはかわす。できるなら剣を突き入れる。これを何回も繰り返した。かなり掴めてきた。かわすだけならもう完璧だ。後はどう突き入れるかだ。
また突っ込んでくる。それをかわしつつ、今度は今までよりも半歩深く踏み込んでみた。ちょっとした賭けだった。失敗すればちょっとした怪我を負う危険性もあった。だが、上手くいった。今までよりも深く突き入れることができた。その上、こっちは無傷で済んだ。
手応えはあった。振り返ったヤツを見ても、火球と化しているためどの程度ダメージを与えられたのかはわからなかった。だが、すれ違いざまによろめいたところを見ても、多少なりとも痛手を与えられたのは間違いない。
よし! これなら勝てる!
ヤツがこのまま怒りに駆られたまま馬鹿正直に同じことを繰り返してくれれば、そのうち勝てる。
ヤツはクルリと踵を返し、すぐさま再び突っ込んできた。どうやらまだ懲りていないらしい。俺はそこに付け込ませてもらう。
突っ込んでくるヤツに剣を向ける。要領は得ている。さっきと同じようにやれば上手くいく。簡単だ。
だが、目前まで迫ってきたヤツに向けて剣を突き入れようとした瞬間、ヤツが加速した。俺の計算には無い行動だった。
謀られたッ……!
ヤツの今までの行動は所謂『釣り』だった。俺に仕掛けさせるため、あえて単調な行動を繰り返す馬鹿を演じていた。俺はそれにまんまと引っかかってしまったわけだ。仕掛けるその時こそ、大きな隙が生まれる。
ヤツにしてやられた。それに気付いた時にはもう遅い。慌てて回避行動に移るも体勢もタイミングもすこぶる悪い。ヤツは速く、俺は鈍い。どう見ても避けられない。一瞬の間に、俺は死を覚悟した。
その時だった。陽光を受けてキラキラと光る大量の何かが、容赦なくヤツに降り注いだ。
「『氷結弾』!」
『氷結弾』を受けて大きく姿勢を崩す双角獣。不意打ちにヤツの足が乱れた。一転して、形勢は俺に有利になった。俺はヤツの足に一撃見舞ってやった。手応えはあった。それと同時に、横っ飛びしてヤツと距離を取った。
胴体に『氷結弾』、足に『黒炎剣』を受け、いよいよバランスを失ったヤツは激しく転倒し、土煙を上げて地面を滑った。
「コーイチ、大丈夫!?」
声の方を見ると、やっぱりケイだった。『氷結弾』といえば、彼女の得意技だ。ケイが俺に駆け寄ってくる。
「ああ、なんとか。助かったよ。『氷結弾』がなかったらヤバかった」
「『氷結弾』はほとんど効いてない。纏った炎にほとんどが阻まれた。……それにしても話が違う。角を返せば、それで済むと聞いていた」
「予定は未定って言うだろ? でも、あんまり変わらないさ。平和的解決にちょっぴり強硬策を取り入れるだけ」
「柔軟な発想に敬服する」
「どーも。さて、冗談はさておいて、あれとどうやってやりあえばいいと思う?」
俺が剣で指した先には双角獣が、立ち上がりつつあった。火の玉のように全身を包んでいた炎は、ヤツの身体がハッキリとわかるほど落ち着いていたが、ヤツのやる気が萎えた様子はない。怒り狂った目には以前変わりない威圧感がある。
「それはコーイチ次第。私の『氷結弾』では有効打になりえない。私はあなたを補助することしかできない」
「……、じゃあ俺はどうすればいい?」
「あなたにできることはあなたが一番良く知っているはず」
「自分で考えろってことか……、確かに、そうだよな」
「私の『氷結弾』が有効打にならないと同様、双角獣の火も、私には効きにくい。だから私はあなたの盾になる。私は私の身を守り、同時にあなたの身も守る。だからコーイチ、あなたは思う存分好きなように戦って」
「わかった、じゃあ防御はよろしく頼む」
「うん、頼まれた」
ヤツの角に炎が、火柱となって燃え盛った。ヤツが首を釣り竿のようにしならせ振り抜くと、角から勢いよく炎が放たれた。
「『氷壁』!」
ケイの詠唱と共に、俺の目の前に氷の壁が生成される。しかし、『氷壁はそれ一つにとどまらない。辺り一帯に墓所の墓石よろしく、大量の『氷壁』が生み出される。
飛来してきたヤツの炎は、俺の目の前に出来た『氷壁』にぶつかって双方揃って消滅した。
「コーイチ、『氷壁』は図体の大きい双角獣にとってとっては邪魔な障害物。それでいて私達にとっては炎からの丁度いい遮蔽物。上手く利用して戦って」
なんて素晴らしいことを考えるんだケイは! これなら格段に戦いやすくなること間違いなし!
「ありがとう、ケイ! これで勝ったも同然だ!」
「油断しないで。それと、大量に作らなければならなかったから、一つ一つの『氷壁』(アイス・ウォール)』は薄くなってる。双角獣の火を完全に防げるかどうかはわからないから、過信はしないで」
「了解ッ!」
俺はヤツに向かって敢然とダッシュした。こうなったからにはあまり時間はかけていられない。なぜなら、一つ一つの氷が薄いということは、それだけケイに余力がないということ、つまり、ケイの魔力は尽きかけている可能性がある。ケイの魔力が尽きてしまえば、俺は援護無しで戦わなければならない。ここはケイの援護がある内に、決着をつけるのがベストだ。




