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お風呂にグレイスも登場! ケイとグレイスのダブルアタックにコーイチの貞操が危ないッ!

またお風呂回。

 「ケイ、あなたコーイチ様のことが好きなのね?」


 グレイスがニッコリ笑みを浮かべて言った。

 ケイがサッと俺から離れる。


 「いえ、あの、それは……」


 何か言おうとして、言い淀むケイ。


 「別に隠さなくたっていいのよ? 女性が素敵な殿方を慕うのは当然のこと、恥ずかしがることないわ。それに、あれだけくっついておきながら、今さら否定するなんて無理があると思わない?」


 ごもっともだった。ケイはただただ顔を赤くするだけで、一言も反論しなかった。


 「ところでコーイチ様」


 グレイスの視線が突然、俺へと向いた。


 「は、はいっ!」


 「コーイチ様は、ケイとお付き合いされているのでしょうか?」


 グレイスの目は真剣だ。今までにない、初めて見る厳しい目つきだ。この目は嘘やいい加減なことを言ってはいけない目だ。詭弁は通じないどころか、より事態を悪化させてしまうだろう。ここは誠実に、素直に、正直に答えるしかない。


 「い、いえ……、付き合ってはいません」


 「ケイのことを愛していますか?」


 「可愛らしくて、いい子だとは思いますけど、正直なところ、愛しているかはわかりません。今まで恋愛とかしたことなかったですから……」


 「それを聞いて安心しました」


 グレイスは心底安心したらしく、ふーっ、と大きく息をついた。


 「まさかケイが抜け駆けするとは思ってもいなかったものですから」


 抜け駆け? どういう意味だ?


 「主がコーイチ様をお慕いしているとは露ほども知らなかったものですから……、申し訳ございません」


 ケイは額を床に擦らんばかりにガバッと平伏した。


 えっ、グレイスさんが俺を? ちょっと信じられない。ちょっぴりモテ過ぎじゃないだろうか? 異世界に来てそんなに月日も経たないのに、俺を好きな女性が三人もいるんなんて。元の世界ではさっぱりモテなかったのに、異世界ではこんなにモテるのは一体何故? 異世界基準ではイケメンなのか? それともモテ期が到来したのか?


 「ケイ、顔を上げて。今のは私の言い方が悪かったわ。あなたが誰を好きになろうと自由。この件に関しては、私とあなたが主従だからといって遠慮する必要はないわ。さっき、あんな言い方をしてしまったのは、好きな殿方を取られるかもしれない恐怖のせいで、つい意地悪な言い方をしてしまったの。ごめんなさいね」


 「私も、コーイチ様のことを好きでいてもいいのですか?」


 「もちろん、誰が誰を好きになろうとそれは自由。だから、私とケイは、コーイチ様に関しては今より敵同士。主従だからといって遠慮する必要はないわ。正々堂々、コーイチ様を取り合いましょう」


 「は、はい……!」


 グレイスとケイの主従は手を取り合って見つめ合っている。美しきかな、主従の友情。話の中心人物のはずの俺はどうしてか、蚊帳の外に置いてけぼりになっている気がする。


 「だけど驚いたわ。日頃は恋愛ごとに興味がなくて、たとえ恋をしたとしても奥手そうなあなたがこんなにも積極的になるなんて」


 「コーイチ様がどうしても欲しかったから……、コーイチ様は私の心に火を点けた。『火剣の勇者』は伊達じゃなかった」


 「わかるわ。コーイチ様は強く、逞しく、優しく、さらには女心をくすぐる香気こうきのようなものが漂っているわ。ひと目見たときから只者ではないとわかっていたけれど、傍でコーイチ様の香気に当てられると、もうどうしようもなくなってしまうわよね」


 本人を目の前にして、なんちゅーことを言っているんだアノ二人は。馬鹿なんじゃないだろうか? 褒め殺しにもほどがある。まともに聞いてられないよ、全く。香気が云々なんてそんなこと今まで一度も言われたことないし。恥ずかしすぎて全身がムズムズしてくる。当人たちは純粋に褒めてくれているのだろうけど、あんまりやりすぎるから馬鹿にしているようにも聞こえてくる。過剰なヨイショと皮肉はよく似ている。


 「コーイチ様」


 突然、クルリとグレイスが俺へと向いた。


 「改めて申し上げさせていただきます。グレイスはコーイチ様、貴方様をお慕いしております」


 グレイスは頬を染め、恥ずかしげに俯いた。

 改まって言われると、こっちも照れるし緊張する。


 「と、突然言われても……」


 「ご返事は何時でも構いません。今日はただ、宣言しに参りました。少しでも私を意識してもらおうと思って。こういうのは早いほうがいいと思って。ねぇ、ケイ?」


 「は、はい! 仰る通りです!」


 「さて、この件は一旦これくらいにしておきましょう。コーイチ様はケーディック家にとって大切なお客様。大切なお客様のお心を野暮なことで煩わせてはケーディックの名折れです。ですから、私達の個人的な感情を抜きにして、ケーディックの主従はこれから貴方様に、ご奉仕させていただきたいと思います」


 ニッコリとグレイスは笑って言った。


 「ご、ご奉仕?」


 「はい。まずは旅塵を清めて差し上げます。『風流ウィンド・ストリーム』」


 グレイスの詠唱とともに、突然風が吹いた。突風と言っていいほど強烈な風は、俺の股間に巻き付けたタオルを危うく飛ばしかけた。

 股間のタオルが飛びそうになるほどの風だから、グレイスとケイの身体を覆うタオルも飛んでしまうかもしれない。好奇心と下心、もとい、彼女らがあられもない姿を晒してしまうのではないかと心配になり、チラリと二人を盗み見た。が、杞憂だった。二人の身体にタオルはしっかりと巻かれているし、それどころか風の影響を微塵も受けていないようだ。タオルの端がはためくどころか、髪の毛一本もなびいていない。


 風は俺だけに、ピンポイントに吹いている……!?


 さらに強烈な突風が俺を襲った。台風クラスのヤベーヤツだ。あっという間に俺の身体は宙に舞った。ヤバイ、と思ったのも束の間で、身体は宙に浮いたものの落ちることなく、空中に静止した。空中と言ってもそれほど全然高くはない。俺は地上三十センチほどの高さ、見えない椅子に座るような形で静止している。身体全体に微かに風の流れを感じる。風の流れが見えない空気の椅子を形成している、ということだろう。問題は、これがただの空気の椅子ではない、ということだ。空気の椅子に座った俺はほとんど身動きが取れなかった。手足はおろか、首さえまともに動かせない。かろうじて動くのは手や足の指先だけだ。風の椅子というよりは、風の拷問椅子といった具合だ。


 「あの、グレイスさん? 全く動けないのですが、一体何を……?」


 「あら、コーイチ様、いつの間にそのように逞しい左腕になられたのですか?」


 「た、逞しいですか? まぁ、これは色々あって……、いや、そんなことより、これ、何なんですか!?」


 「コーイチ様のお体を洗わせていただきたいと思いまして、この方がお互いにとって都合が良いかと」


 「何がどう都合が良いのかさっぱりわかりませんが」


 「今のその体勢はコーイチ様にとっても私どもにとっても楽な姿勢なのです。コーイチ様は少しも動かずに済み、私どもとしても、お体を洗い易い位置関係なのです。さぁ、ケイ、私とあなたで身体の隅々までキレイにして差し上げましょうね」


 「はい」


 タオルを持った主従が、身動きの取れない俺に迫る。


 「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! この格好はちょっと恥ずかしすぎますからっ! それに隅々まで洗ってもらわなくって結構ですからっ! 自分で洗えますからっ!」


 この状態はあまりにも恥ずかしすぎる。ドMなへきをお持ちの人なら願ったり叶ったりなのかもしれないが、少なくとも俺は違う。アブノーマルには早すぎる。こういうことはもっとノーマルな経験を積んでからじゃないと。


 「コーイチ様、そのように恥ずかしがられると、まるでいかがわしいことをしているような気になってしまいますわ。私どもの方には、いやらしい気持ちも下心も一切ありませんのに。そうでしょう、ケイ?」


 ケイはコクリコクリと頷く。


 「そ、それはそうでしょうが……」


 「ですからご安心を。何も恥ずかしがることなんて……、あら……!」


 至近距離まで近づいたグレイスとケイが、手に持ったタオルを同時に取り落とし、手で目を覆った。しかし、覆った手はわざとらしく開かれ、開かれた指の隙間から、二人の大きく見開かれた双眸が俺のある一点を凝視していた。


 「あっ……!」


 二人の視線は俺の股間に注がれていた。それで気が付いた。俺の股間にあるべき、最後の砦となるべき一枚の布、すなわちタオルが持ち場を離れてしまっていることに。

 見られて、俺の『リトルコーイチ』は反応してしまった。羞恥は時に快楽と興奮を生む。俺はそのことを今初めて理解した。

 二人の顔が見る見るうちに赤くなった。流石に、子供の皮を脱いだ『ビッグガイコーイチ』を直視し続けられなかった二人は、今度こそ本当に目を手で覆った。同時に、グレイスの魔法が解けた。俺は空中から落下し、ケツを打った。地上三十センチからなので、それほど痛くはない。


 「す、すみません、コーイチ様!」


 グレイスが真っ赤な顔をして謝る。まだまっすぐこっちを見れないらしい。それは俺も同じだ。『ビッグガイコーイチ』のまま、バスタオル一枚の女性を見ることができるほど、俺は大人じゃない。


 「だ、大丈夫です。あの、お気持ちは嬉しいんですが、身体は自分で洗いますので……」


 「そ、そうですよねっ。すみません、無理強いしちゃったみたいで」


 「いえいえ、お気持ちはホントすごくありがたかったですから」


 「そう言っていただけるとありがたいです。それでは、お風呂のお邪魔になるでしょうから、私はこれで……」


 熟れ過ぎたトマトみたいに真っ赤な顔をしたまま、二人の主従は足早に風呂場から出ていった。


 「ふーっ……」


 誰もいなくなった風呂場で一人、深い溜め息をついた。


 あの主従は一体何を考えているんだ? ひょっとして変態なんじゃないだろうか? それとも俺を想い過ぎて頭がおかしくなってたのだろうか? もしくは、ただ単に親切心が行き過ぎていただけなのか?

 何にせよ、今の俺に彼女らを素直に受け入れるのは難しい。時間も体力も理解も何もかも足りていない。彼女らの気持ちにどう答えるべきか、答えを出すにはまだまだ時が必要だろう。

 しかし、二人とも積極的な割には『ビッグガイコーイチ』を見て恥ずかしがり、顔を真赤にさせたところを見ると、彼女らの方の経験値も、俺と大して変わりないのかもしれない。


 まぁ、何にせよここで止まって良かった。あれ以上されたら、俺も男だ、どうなるかわからない。理性が吹っ飛び、本能と欲望のまま、二人に手を出したかと思うと恐ろしい。女の子とそういう関係になりたい気持ちはありまくりだけど、せめて初めては、場の空気や雰囲気に流されるんじゃなくて、互いに理解を深め、互いに納得した上で、ことに至るのが理想だ。俺はわりかし、純情派だ。


 俺の『コーイチ』はまだ収まっていない。二人は一応去ったが、興奮は冷めやらず、浴室内にも甘い残り香のようなものが漂っている。目を瞑れば二人のセクシー過ぎる姿がありありと浮かんでしまう。悲しいかな、男の性質さがってヤツだ。

 見られ損なのか、それとも得だったのかわからない。ポジティブに見るなら、前の世界では絶対にありえないような貴重な体験ができた、と考えることもできる。ネガティブな方は……、よそう、今は考えるだけしんどい。確実なことは一つ、メッチャクチャ疲れた、ということだ。


 俺は青いつまみをひねって、冷たいシャワーを勢いよく大量に頭から浴びた。色んなモノを冷ますには、これが一番だ。

読んでくれてありがとう!

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