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女神様から与えられたのは幸運チートだけ!? そりゃないっすよ!! ~運も実力の内! 運で乗り切れ異世界生活!!~  作者: 摂津守
一角獣編

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アコードの贖罪。

 ミラとかいう従者が、更に強く、俺の頭を引っ張った。答えろ、という合図らしい。そんなこと、口で言えば伝わるのに、わざわざこんなやり方をするなんて、つくづくムカつくヤツだ。


 「アコードさん、大事なお話があります。あなたの命に関わることです」


 「どういう意味だ? 誰かが僕の暗殺を企み、君のような侵入者を送り込む、とでも言うのかな? それなら心配は無用だ。君が身をもって思い知ったように、僕にはいついかなるときも、優秀な護衛が付いている」


 話がおかしい。瀕死の人間の言葉とは思えない。アコードが気にすべき、今一番己の生命を脅かしているのは呪いのはずだ。実際に、呪いはかなりアコードの身体を蝕んでいるように思える。アコードの姿形は見えないが、声の端々からそれが感じ取れるし、今だって、ほんの少し喋っただけなのに、息を切らし、それをひた隠そうとしている。それが何故、暗殺を気にするような発言をするのだろうか。


 すぐにピンときた。なるほど、アコードは自らの体調を秘匿したいのだろう。次期領主といえば、かなりの重要人物だ。俺にはわからないような、複雑な政治的駆け引きが行われる立場であり、政争の場に身を置かざるをえないだろう。そういう場では、体調一つとっても、政治の場では重要な要素になってくるに違いない。グレイスが家のためにもアコードを助けたいと言ったのは、その辺の事情からもあるのだろう。


 それを踏まえれば、アコードが健康を取り繕うのも筋が通る。面識がなく、アポ無しで部屋に入った俺は、アコードの目から見ると、さしずめスパイか暗殺者といったところだろう。不調をひた隠しにし、俺を床に倒すほど警戒するのも無理はない。


 「アコードさん、俺に隠し事は無用です。全てグレイスさんから聞きました。俺はグレイスさんに頼まれ、一角獣ユニコーンを退治しに山に行きました」


 「放していい。どうやら彼は敵ではないらしい」


 ミラはすぐに俺を放し、俺から離れた。

 俺は倒された拍子に床にぶつけたところをさすりつつ、ゆっくりと起き上がった。


 「ミラ、明かりを」


 まるでその命令を待っていたと言わんばかりに、すぐに明かりが灯った。三本差しの燭台に、三つの明かりが灯り、暗闇を払った。部屋の様相がにわかに露わになった。

 部屋の中央にキングサイズのベッドがあり、そこから上体だけを起こし、首だけをこちらに向けている人物がいた。多分、彼がアコードだ。蝋燭のオレンジの光に照らされる彼の顔は、死人のように青白い。目は落ち窪み、頬はげっそりこけている。それでも、表情だけは毅然としている。男性にしては長めの髪も、綺麗に整えられている。


 燭台の置かれたテーブルの傍に、長身の女性がいた。彼女が明かりを点けたのだろう。ということは、彼女がミラだ。ウェーブのかかったセミロングの金髪。シンプルなワンピースタイプのドレスを着ている。スレンダーな体のラインから顔のパーツに至るまで、何もかもが鋭角的だ。一言で言ってしまえば美人だが、何となく、彼女からは冷たさを感じる。それは、さっき床に叩きつけられたたおかげで、彼女に対してムカついているせいもあるのかもしれない。


 「あのような出迎えになったこと、悪く思わないで欲しい。僕には――我が家には敵が多くてね。常に気を張り詰めている必要がある」


 アコードは微笑んだ。微笑には、やや苦痛の影がある。


 「いえ、勝手に入った俺も悪いですから」


 「一角獣ユニコーン退治に行ってくれたようだが、どうやら不首尾に終わったようだね」


 「一角獣ユニコーンは退治できませんでした。ですが、もし退治できたとして、アコードさんの呪いは解けるでしょうか?」


 「……どういう意味だ?」


 アコードの声が、少しばかり固くなった。


 「アコードさん、あなたはお姉さん――グレイスさんに嘘を吐きましたね?」


 アコードの目が、少しばかり見開かれた。どうやら図星らしい。


 「俺は真実を知っています。アコードさん、あなたは一角獣ユニコーンではなく、双角獣バイコーンに襲われた。というより、双角獣バイコーンの角を得るために、あなたの方から襲いかかった。あなたは見事に双角獣バイコーンから角を奪い取った。しかし、代わりに傷を負い、呪いをかけられた」


 アコードは冷静を取り繕おうとしていたが、無駄な努力だった。動揺が顔に出ていた。姉に対しては、一角獣ユニコーンに襲われたと、平然と嘘を吐いた男が、この程度のことでボロを出すのは、呪いによる苦痛のせいで、精神の平衡へいこうが崩れているせいだろう。


 「見てた人がいたんです。あなたと双角獣バイコーンが戦っているその時その場所に、ちょうど居合わせた人がいたんです」


 「そうか、バレてしまったか」


 アコードは爽やかに微笑んで言った。案外いさぎよかった。


 「君の言う通りだ。一角獣ユニコーンにやられたと嘘を吐いたのはね、このことを誰にも探られたくなかったからだよ。一角獣ユニコーンは神聖かつ希少な生き物だからね。神聖だから手を出しにくく、たとえ探しに出たとしても見つかりにくい生き物。そんなものをわざわざ探しに、あまつさえ退治しに行く人間なんていない、と高を括っていたのだが、当てが外れたな。しかも優秀ときたものだ」


 アコードは苦笑した。


 「何故、探られたくなかったんです? 呪いを解かなくても良いんですか? それとも呪いを解く方法が他にも?」


 「君も知っての通り、本当の相手は双角獣バイコーンだ。一角獣ユニコーンは臆病で警戒心が強く、向こうから襲いかかって来ることはないが、双角獣バイコーンは違う。いざとなれば好戦的で、獰猛かつ強力だ。君もそれを身をもって体験しただろう? 僕の我儘わがままに付き合わせて、誰かを危険な目に遭わせたくなかった。しかし裏目に出てしまったようだね。コーイチ君、君を危険な目に遭わせたのは僕の責任だ。すまなかった」


 アコードは俺に向かって頭を下げた。


 「アコードさん、謝罪の気持ちがあるなら、ここは一つ、俺の提案を聞き入れて貰えませんか?」


 「提案?」


 「はい。聞き入れて貰えれば、全てが丸く収まります」


 「なんだね、それは?」


 「双角獣バイコーンの角を、俺に渡して下さい」


 「なに……?」


 アコードの声は、明らかに不快感がにじみ出ていた。目は鋭く細められ、口元が歪んだ。だが、それはほんの一瞬だった。


 「双角獣バイコーンに角を返します。そうすればあなたにかけられた呪いは解けます。あなたも助かり、双角獣バイコーンも助かります」


 「聞けない話だな。それでは僕が命をかけてまで双角獣バイコーンの角を手に入れた意味がないじゃないか」


 確かにそうだ。そもそも、何故アコードが双角獣バイコーンの角を欲しがったのか、それをまだ聞いていなかった。


 「しかし、角を返さなければあなたは死にます。双角獣バイコーンの角は、あなたの命よりも大事なものなのですか?」


 「実にその通りなのだ」


 アコードは微笑をもって返した。他意のない、爽やかな微笑だった。


 「コーイチ、姉上には会ったのだろう? 美しい人だろう?」


 俺はうなずいた。一瞬、グレイスの裸身が頭をよぎったが、すぐに頭の中から追い払った。今はマジメな話の最中さいちゅうだ。いくら『リビドー全開思春期真っ盛りチェリーボーイ』とは言え、こういう空気では馬鹿な想像は慎まないと。


 「双角獣バイコーンの角はな、姉上への贖罪しょくざいなのだ」


 アコードの目元が曇る。

読んでくれてありがとう。

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