夢の中のヴェイロン。
良い子のためのお昼投稿。
夢だ、夢を見ている。
雲ひとつない白んだ晴天の下、だだっ広く、白い花畑に俺は立っていた。
俺はただ立っていた。ぼんやりと空を薄目で眺め、全身で暖かなそよ風を感じていた。
花畑に立つ俺には左腕がなかった。初めて俺は、自分が左腕を失ったことを実感した。
これは夢だ。夢の中だと、なぜか分かる。
夢が夢だと夢の中でわかるのは、これが初めてだった。今までこんなことはなかった。不思議な感覚だ。
しかも俯瞰視点だ。白い花畑につっ立つ俺を、俺は眺めている。まるで映画のように。
夢の中ならなんでもできるんじゃないだろうか? 突然そんな事を思いつき、ちょっと空でも飛んでみようかと思って念じてみたのだが、それはできなかった。相変わらず、俺は花畑をぼんやりつっ立ってるし、俺はそれを固定カメラの俯瞰で眺めている。
どうやら俺の夢は自由じゃないらしい。
と、その時、なんの脈絡もなく、ヴェイロンが現れた。予兆も何もない。それは突然、パッと現れ、花畑に立つ俺の目の前にいた。
俯瞰で見る俺はかなりビビったのだが、花畑に立つ俺は、目の前に現れたヴェイロンの巨体に対して、身じろぎ一つしない。何も感じていないようだった。
「双角獣ごときに腕を取られたか。全く情けない奴だ。もう少しやる奴だと思っていたが、俺の見込み違いだったかな?」
開口一番、結構な言い草だ。勝手に期待して、見込み違いだったとか言われても困る。
腹が立つが、言い返す度胸はない。夢の中とはいえ、あんなデカい化物の機嫌を損ねるようなことは絶対に言えない。夢の中でも殺されたくはない。
わざわざそんなことを言うために人の夢の中に現れるなんて嫌味なヤツだ。まぁ、これは夢の中だから、俺の中のヴェイロンのイメージが嫌味なヤツ、というだけなのかもしれないが。
「まぁ、お前はまだ若い。俺からすれば赤子のようなものだ。ときには間違いを起こしもするだろうし、危険もあるだろう。今回はいい経験になったと思うべきだな。経験の代償として左腕一本は、少し重すぎる気もするがな。古来には片腕の無い英雄も多くいたが……、片腕を失ったお前がそうなれるかどうかは、甚だ疑問ではあるがな」
ヴェイロンはなぜか楽しげだ。そんなに俺が、腕一本失くしたことが面白いのだろうか。だとしたら、こいつは相当なサディストだ。
「しかし胡散臭い話だな。あの一角獣が言うには、双角獣の角を奪い去ったのは、件の依頼者の弟なのだろう? 一角獣と双角獣は角だけでも区別できる。一角獣は角がまっすぐ伸び、双角獣はねじれる。依頼者の弟は、自らに呪いをかけたのが双角獣だとわかっていたはずだ」
ヴェイロンの言うことはもっともだった。確かに、おかしな話だった。
「問題は誰が嘘を吐いているかだな。依頼者か、その弟か、もしくは一角獣か」
誰かが嘘を吐いている、そう言われて、俺はドキッとした。嘘を吐かれているなんて自覚は全くなかったし、今だってそうは思わない。
確かにおかしな話ではある。グレイスとスタリオンの話は食い違っている。
疑心暗鬼が夏の雨雲のように、俺の頭の中で膨れ上がる。
「ひよこもひよこのお前には、今回の件は少し厳しすぎる試練だったかもしれないな。しばらくは、ただ見守るだけのつもりだったが、少し、手を貸してやろう。手を失ったお前に『手を貸す』か、クッ、ククク……」
ヴェイロンの、噛み殺しきれない笑いが漏れた。巨体なだけあって、そんな笑いであっても結構響く。
それにしてもつまらないし、くだらないジョークだった。全く何が面白いのか理解に苦しむ。
ひとしきり笑った後、
「もう時間だ。お前と違って俺は忙しいのだ。もし、また次に双角獣とやるなら、今度は絶対に負けるなよ。絶対に勝て。俺を失望させるなよ」
と言って、まるでマジシャンが手品で品物を消すようにサッと消え失せてしまった。
俺は一人でポツンと取り残された。
取り残された俺は、相変わらず花畑でボーッとつっ立っている。
全く面白味もクソもない夢だ。
読んでくれてありがとう!




