女神様にチート貰って異世界行くことになりました。つーか、神様のくせに人間一人救えないってどうなのよ? それに俺のステータス微妙じゃない!?
チートきた! これで勝つる!
俺と女神様は手を取り合ったままゆっくりと下降し、着地した。
「多加賀幸一様、あなたにはこれから、異世界に行ってもらいます」
突然、女神様は意味不明なことを言い出した。
しかも、割とマジメな表情で。
俺の命を救ってくれるんじゃなかったのか?
異世界ってなんじゃそりゃ?
「あのー、どういうことでしょう?」
「実は私の力だけでは、あなたを救うことはできないのです」
「えっ!? め、女神様ですよね? 女神って神様ですよね? 神様って何でもできるんじゃないんですか?」
「あなた方人間から見れば、神の力というのは全能のごとく見えるでしょう。しかし、そうではないのです。いくら神といえども、死の運命を動かすほどの力は持たないのです。北欧神話のオーディンだって、全能とか謳っておきながら死にましたよね? 神様は確かに偉いのですが、絶対無敵というわけでもないのです。神の力を持ってしても動かせないもの、それが『死』です。しかし、それほど重いものを動かせるものが、たった一つ存在するのです」
「そ、それは……!?」
「それは異世界にあります。あなたが生まれ育ったここではない、また別の世界。そこであなたは『混沌の指環』を見つけ出し、持ち帰るのです。そうすれば、あなたは晴れて死の運命から逃れることができます」
「い、異世界って、大丈夫なんですか?」
「大丈夫、とは?」
「行った直後、酸素がなくて、息ができなくて死んじゃったりとか、硫酸の雨が降ってるとか……」
「そのようなことはありません。人間が普通に生活できる環境です。むしろ科学技術がこちらの世界に比べてあまり発達していないだけ、空気がキレイで住みやすいかもしれませんね。まぁ科学技術が発達していませんから、この国で言うところの、江戸時代のような生活様式ではありますが」
「そ、そんなところへ行って、『かおすりんぐ』なるものを上手く探せますでしょうか……?」
「それは、多加賀幸一様の才覚次第ということになりますね」
「あの、滅茶苦茶不安なんですが……。俺はこれといって特技もない、運動神経も特別良いわけじゃない、頭だって、赤点をギリ取らないくらいの出来で、どれも平均値を出ないレベルなんですよ。その上、運が滅茶苦茶悪いときてるんです。そんな人間が江戸時代に行ってなんとかなりますかね……?」
「もちろん、私は女神ですから、多加賀幸一様のことはよく存じ上げております。おっしゃる通り、今のままのあなたが異世界に行っても、野垂れ死にするのは目に見えています。しかし……」
そこで女神様はニッと笑って、
「心配ご無用!」
左手を腰にあて、右手を天高く上げ、ドヤ顔を浮かべた。
いきなりのテンションアップに、俺はびっくちしちゃって、半歩後ずさった。
この女神様、ちょっと情緒不安定なんじゃないだろうか?
「あなたに、女神ウアイラの祝福を授けます!」
女神様の高々と上げられた右手が振り下ろされた。
すると、金色の光が輪となって空から降り、俺を包み込んだ。
突然のことに、俺は驚く暇さえなかった。
鈴の音がどこからか聞こえた。
金の光の輪は、俺の身体に吸い込まれるようにして、溶けて消えた。
「い、い、今のは……?」
金の光の輪に包まれ、それが俺の身体の中に消える、なんて今まで味わったことのない異常事態に、俺は滅茶苦茶ビビった。
身体中を手でまさぐった。痛みも感じないし、違和感もない。
「多加賀幸一様に女神ウアイラの祝福を与えました。ところで、多加賀幸一様はロールプレイングゲームなどはおやりになられますか?」
「えっ。いや、特別好きってわけじゃないですが、ちょっとぐらいはやったことありますけど」
「そうですか、それなら安心です。では、あなたの『ステータス』画面を開きます」
「えっ、『ステータス』画面……?」
女神様、あんた突然何を言ってんだ……、と思った瞬間目の前に、パソコンのウィンドウ画面のようなものが出現した。
淡い透明感のある薄緑色のそれは、ディスプレイがあるわけでもなく、タブレット端末があるわけでもなく、プロジェクターで投射されているわけでもなく、何もない空中に浮いている。
かなりSF感溢れている。
ウィンドウにはこんなことが書いてあった。
名前 :多加賀幸一
種族 :人間
年齢 :十六歳
体力 :平均
魔力 :平均
物理攻撃力 :平均
物理耐性 :平均
魔法攻撃力 :平均
魔法耐性 :平均
器用さ(物理):平均
器用さ(魔法):平均
幸運 :どん底
「多加賀幸一様のステータスは、あなたがおっしゃる通り平均的ですね。幸運はかなりヒドいみたいですが」
女神様は苦笑しつつ言った。
「こ、これは一体……」
「これはあなたの能力をロールプレイングゲーム風に表現したものです。しかし現実はあくまでもゲームとは違うので数値化できず、文章で、なおかつかなり曖昧に表現されています。はっきり言って、この何の取り柄もないステータスで異世界に送るのは不安しかありません。そこで、これです」
女神様が右手の人差指をピンと立てると、ステータス画面に変化が加わった。棒グラフのようなものが現れた。
「今現れたのが女神ウアイラの祝福。いわゆる『ステータス補正』です。ボーナスポイントですね。ボーナスポイントを割り振ることで、あなたのステータスをアップさせることができます。自慢じゃないですが、かなりスゴいんですよぉ。はっきり言っちゃうとチートです。ゲームで言うところの、開始直後から即レベルカンスト状態のようなものです!」
女神様は自信満々に胸を張った。やっぱり胸がボヨヨンと揺れた。あんまり張るもんだから、稗田八方斎ばりにそっくりかえるんじゃないかとちょっと心配になった。