いざ、山へ。
ただ山へ行くだけのくだり。
じきに日が暮れ、素人の俺に夜山は危険だということなので、一角獣殺しは翌早朝からになった。
一角獣殺しの計画が決まると、グレイスは俺のために饗宴を開いてくれた。
酒はこの前のハインライン邸でのことで懲りてはいたけど、グレイスという稀代の美人にすすめられ、ついつい飲んでしまった。しかし、飲みすぎるということはなく、醜態を晒さずに済んだ。
気がつけば夜も更けていたので、俺はケーディック邸に泊まることになった。
エランを心配させないように、ケーディック邸に泊まる旨をエランに伝える使者を出してもらった。
饗宴の後は、領主の邸に相応しい大きな風呂に入り、その後、寝床に入った。ベッドに入るなり、すぐに眠りに落ちた。
翌早朝、ケイが俺を起こしにきた。まだ薄暗い時分だ。
しかし眠さはほとんどない。バッチリ眠れたらしい。気分は爽快。身体は軽快。
何故かとても気分が良いので、普段はやらないストレッチをやってみる。
身体の各部を伸ばしながら、ふと、今から臨む危険な仕事が頭をよぎる。
一角獣殺し。それは禁忌中の禁忌。なおかつとても危険。下手すれば、俺もアコード・ケーディックと同じ目に遭うかもしれない。
そんなことが頭をよぎると、せっかくの早朝の爽快なテンションも下がってくる。
早朝からブルーになりたくはないので、そのことについては、もう考えないようにする。
考えたって同じだ。やると決めたら、やるしかない。それが男ってヤツだ。だからもう考えない。
なるようになれ、だ。
俺は覚悟をしっかりと固めた。
服を着替え、軽めの朝食を取り、顔を洗う。
それで、俺の準備は全て終わり。後のことは全てケイがやってくれていた。
起床して約一時間後、空が白み始めた頃、俺とケイは馬車に乗り、一角獣がいる山へと出掛けた。
ケイはただ付いてくるだけではなく、一緒に戦ってくれるらしい。彼女の言葉を借りれば、『お手伝い』だそうな。
ありがたいし、とても助かる。むしろケイの実力を思い知らされた身としては、ケイこそが『主戦力』で、俺が『お手伝い』と言うべきだろう。
夜が明け、晴れ渡る青空の下を、俺達は黙々と進んだ。
ケイは無口な人だった。シャイではなく、ただ無口だ。
クールで無口だ。俺が話しかければ、抑揚と感情が薄いながらも、しっかりと言葉を返してくれる。だが、言葉数は最小限だし、ケイからは話しかけてこない。ただひたすらクールで無口だ。
俺もそれほど話題の多い方ではないので、道中ほとんど会話がなかった。
温かい日差しに長閑な道と風景のおかげで、俺はつい朝寝をしてしまった。
ケイに揺すられ目覚めると、険しい山道に差し掛かっていた。
ここからはちょっとした登山だった。
一時間ほど起伏の激しい山道を登ると、開けた場所に出た。そこには山小屋が一軒、ポツンと建っていた。
ケイは山小屋の方にすたすたと歩いていき、山小屋のドアの鍵を開け、中に入っていった。ここはケーディック家の持ち山小屋なのだと、ケイは言った。この山小屋を拠点に一角獣を探すのだそうだ。
俺もケイに続いて山小屋に入った。二階建てで意外に広かった。俺のアパートよりか断然良い。さすがは領主の持ち山小屋、といったところか。
ケイは俺に山小屋でしばらく休んでいるように言い、彼女自身は、馬車に置いてきた残りの荷物を取りに山小屋を出ていった。
俺はありがたくケイの指示に従った。ここは素直に従うのがベストだろう。ケイは、登山の身のこなし一つを見ても、山に慣れているようだったし、初心者の俺としては、ここはやはりベテランに従うべきだ。
それに、たった一時間しか歩いていないとはいえ、慣れない登山は結構キツイ。俺はもう疲れ果ててしまっていた。
一眠りした後、またケイに揺り起こされた。いい匂いが漂っていた。ケイが昼食を作ってくれていた。
簡素ながらも美味しい昼食の後、いよいよ仕事に取り掛かった。
ケイの先導で、俺たちは緑深い山を探索した。
俺もケイも緑深い山にうってつけの、厚手の灰褐色の長袖長ズボンを着用し頭につば広の帽子をかぶっていた。ほとんどお揃いだが、ケイの帽子には空色の小さなリボンが付いていた。きっと彼女なりのささやかなお洒落なのだろう。
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