やたらと褒めてくるヤツには気をつけろ! きっと何か裏があるから! それが美人ならなおさら気をつけろ! おだててくる美人ほど恐いモノはないんだぜ!
俺はとっさに身構え、同時にボンボンに対し『オーラスキャン』をする。
『体力』 :君よりちょい上。
『魔力』 :君よりかなり上。
『物理攻撃力』 :どっこい。
『物理耐性』 :ごぶごぶ。
『魔法攻撃力』 :比べるのが失礼なくらいあっちの方がはるかに強い。
『魔法耐性』 :これも比べるまでもない。
『器用さ(物理)』:手練。
『器用さ(魔法)』:魔法関連は比べちゃダメダメ。
『幸運』 :あんたが勝てるのはこれだけ。
幸運以外負けている。あの時、一応勝てたのは、やっぱり運が良かっただけだったようだ。
と、次の瞬間、ボンボンの全身が淡い光に包まれた。
光が消えると、そこにボンボンの姿はなく、代わりに少女が現れた。
少女は白く、小柄で細身だった。濃紺の短パンに白シャツにサスペンダー。黒のストッキング。髪は栗色のショートカット。格好はまるで少年のようだけど、顔立ちと、薄っすらと見えるボディラインが女性であることをあらわしている。ややうつむき加減、シャム猫のような青い目が、上目遣い気味に俺を見ている。
「これは私の従者、ケイ。先程あなた様と戦ったのは弟の姿に変身した彼女です。ケイ、ご挨拶なさい」
ケイ、と呼ばれた少女は表情一つ変えず、目礼した。
つられて、俺も頭を下げる。
短い挨拶のすぐ後、ケイは足音も立てずに俺に近づいてきた。彼女は俺のすぐ目の前に立った。
俺は、つい立ち上がって身構えた。グレイスいわく、このケイという少女こそが、先程俺と戦った相手らしいので、ついつい警戒してしまう。
ケイが小さな手を差し出した。その手には錆びた短剣があった。
「これ、返す」
表情にも感情が薄ければ、声にも感情が表れない。見た目に相応しい、可愛らしい少女の声質なだけに、感情が希薄なのが不気味だ。
「あ、ああ、ありがとう」
俺は恐る恐る手を伸ばし、短剣を受け取った。
ケイはクルリと踵を返して、グレイスの斜め後方、元の位置に戻った。
「ごめんなさい。無愛想ですけど、決して悪気はないんです。ただ少し感情を表に出すのが下手なんです。本当はとってもいい子なんですよ」
グレイスが少し困ったような顔をしていった。
「そのように警戒なさらなくても大丈夫ですよ。ケイは私の命令がなければ決して誰かを傷つけるようなことはしません。もちろん、コーイチ様に対して、そのような命令は絶対に出しません。そもそも、たとえそのような命令を出したところで、コーイチ様に逆襲されるのがオチでしょう」
グレイスはニコリと笑った。
グレイスも俺を買いかぶっている。もしくはお世辞を言っているのか。
実力的には、ケイのほうが俺より勝っていると思う。俺は彼女に運で勝ったに過ぎない。あの時、雨で手が滑らなければ、間違いなく俺は、『つらら串刺し氷漬け』にされていただろう。
運も実力の内とは言うが、実力で勝利したとはとても言えない。
俺は短剣を手に持ったまま、椅子に座った。
「足場の崩壊に巻き込まれて生きている、それどころか、傷一つ無くピンピンしているんですから、ケイさんの方が俺より強いと思いますよ」
「周りの人々は皆、奇跡だと言っています。崩れた足場がケイを避けるように周りに積み重なり、ケイがすっぽり納まるほどの空洞を作り上げたのは、ただ運が良かっただけだと。でも、私はそうは思いません。そうでしょう? コーイチ様」
「俺には、運が良かったとしか思えませんけど」
実際、ただ運が良かったのだろう。なんせ、そういう能力を俺は持っているんだから。
「私、あなた様が人に優しく、決闘であろうとも決して相手を傷つけたりしない方だと聞き及んでおります。実力を持ちながらも、日頃はそれを使わず、誇らず、言いふらさず、清廉かつ謙虚な方と存じ上げております。そのような方が、アレをただ運が良かっただけのこと、と申されるなら、きっとそうなのでしょう」
何やら含みのある言い方だ。
「本当に運が良かっただけですよ。そもそも狙って剣を投げたわけでもないですし。ただ雨で手が滑っただけですから」
「どこまでも謙虚なのですね。でも、あまり謙虚が過ぎると却って嫌味にも聞こえますよ」
「そうですか? あははは……」
俺は苦笑いした。
ダメだこりゃ。どうやら皮肉でも何でもなく、単純に俺を買いかぶっている。
実力以上の評価は正直こそばゆいが、否定すれば謙虚だと捉えられるので、もはや何を言っても無駄だ。
「コーイチ様、あなた様は私が知る限り、実力、人間性ともに最高の人物です。そこを見込んでお願いがあります。どうか私の弟を助けてくださいませんか?」
グレイスが真剣な眼差しを送ってくる。
なるほど、やたら俺を持ち上げるのはそういう理由があったからか。気を良くさせて手伝わそうって魂胆か。悪い手じゃないけど、あまりにも古典的というか、陳腐というか……。
真剣な眼差しから察するに、グレイスさんもかなり困っているようだから、話くらいは聞いてやらないといけない気になってくる。
逆に話を聞かないと損とも言えるか。わざわざ呼びつけて、ケイとかいうヤベーヤツと全身ずぶ濡れになるくらい戦わせられたんだ。それにどんな理由があり、かつ納得できるものなのか、是非そこは知っておきたいところだ。
「助けるかどうかは話を聞いてからじゃないとなんとも言えませんね。そもそも俺に助けられるようなことなのかもわかりませんし」
「話によっては助けてもらえない、ということもありえる、そういうことですか?」
「俺の微力で誰かが救われるのならそうしてあげたいです。けれど、俺は『コレ』を持っている以外はただの人間です」
俺は錆びた短剣をグレイスに見せた。
「ただの人間以上のことはできません。ともかく、グレイスさんのお話を聞かせてください。助けるとか助けられないとかはその後です」
「コーイチ様のおっしゃる通りですね。わかりました。事のいきさつを全て正直にお話します。コーイチ様のような誠実な方なら、正直に話せばきっと、弟を見捨てるようなことはないでしょうから」
グレイスは微笑んだ。
古来から男という生き物は美人の微笑みに弱い。それは俺も例外じゃない。微笑みの誘惑に負けて、二つ返事で了承しそうになるのをこらえなければならない。
グレイスの頼みは、どうせ危険なことに決まっているのだ。実力が要求されるような危険なヤツだ。
自分の生命を助けるために異世界に来ているのに、わざわざ好んで自ら危険に飛び込むのは、本末転倒ってヤツだ。
よくよく話を聞く時は眉に唾をつけて、色香に惑わされないように用心しなければならん。決して、媚びへつらいに乗せられてはいけない。
「コーイチ様は一角獣を知っていますか?」
「一角獣ですか……」
頭に一本角の生えた馬なら知っている。でも、それがこの世界の一角獣と同一であるかはわからない。ヴェイロンの件もある。あれがこの世界のドラゴンらしいが、俺の知っているドラゴンとはかけ離れている。
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