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全裸対面。

 物音に目が覚めた。

 部屋が少し明るくなっていた。

 光源に目を向けると、地上へのドアが開いていた。

 開かれたドアの下、段梯子の側、薄明かりの中に屈強な男のシルエットが二つ浮かび上がっていた。

 二人のムキムキマッチョメンはゆっくりとこっちに向かってくる。その手には縄のようなものと、袋のような何かがあった。

 縄は俺を縛るためのものだろう。まず縛られるのは間違いない。


 問題はその先だ。


 ヤツらは俺を縛ってどうしようというのだろう?


 まさか、俺を『アレ』するんじゃないだろうな? 俺を縛り上げ、あんなことやこんなことをするつもりじゃないだろうな?

 そんなこと絶対にない、とは言い切れないのが恐いところだ。

 なにせ、虜囚を辱め、慰めものにするなんてことは、古今東西どこにでもある話だ。

 たとえそれが野郎同士でも、今がその時であったとしても、決しておかしくはない。

 しかもヤツらはマッチョメン。マッチョメンには『そっちの趣味』を持つ人が多い、と思うのは、俺の偏見だろうか?


 しかも俺は全裸だ。もしヤツらが『あっち系』だとしたら、今の俺は飛んで火に入る夏の虫、カモネギ状態。むしろ俺から誘っていると勘違いする可能性だってある。

 もちろん俺に『そっちのケ』はない。

 たとえあったとしても、無理矢理ヤられるのは絶対に嫌だし、たとえ相手が女性だったとしても、こんなところで、それも相手にいいようにされるのは絶対に嫌だ。


 相手が何であれ、今は貞操を絶対に死守しなければならない場面というわけだ。

 しかし、死守できるかと言えば、多分無理。

 なにせ俺は全裸だ。

 そして相手はマッチョメン。それも二人。

 勝ち目なんてどこにもない。


 マッチョメンが近づいてくるのを、俺は座ったまま動けず、かつ、震えながら見つめるしかなかった。

 震えは寒さのせいだけじゃない。

 マッチョメンはすぐ側に近づくなり、座る俺を見下ろした。

 俺の周囲は暗く、マッチョメンはただただシルエットにしかすぎず、表情すら判然としない。


 「な、何か用ですか……?」


 ヤられるかもしれないという恐怖にビビりまくっていた俺が、僅かに残っていた勇気をもって絞り出した声は、悲しいくらい震えていた。


 マッチョメンは応えず、マッチョメン同士、互いに顔を見合わせた。それから頷きあった。

 直後、マッチョメンが両手を振り上げて襲いかかってきた。

 あまりの恐怖に叫び声すら出ない。その上、抵抗すらさせてもらえなかった。

 マッチョメンは素早く、俺に袋をかぶせた。

 俺は全身袋に包まれた。

 その上から縄でぐるぐる巻にされる。

 袋詰にされ、その上から縄で巻かれたのに、変な話、俺は安堵してしまった。

 とりあえず、貞操が守られたことに心から安堵した。


 しかし、ここで別の問題が浮上する。

 マッチョメンは袋詰の俺を担ぎ上げた。

 かなり揺れる。どこに連行されてるのは確実だ。

 問題はその行き先だ。

 今思い浮かぶのはざっと二つ。


 裁判所。

 もしくは、処刑場。


 この二つ以外ちょっと思い浮かばない。

 もちろん、どちらも嬉しくない。

 裁判は多少の希があるが、処刑場はもうどうしようもない。

 俺の希望は、このまま無罪放免で家に帰ることだがそんなことはないだろう。無罪放免の人間を、袋詰にして縄で縛ったりしないだろうし。

 その時、ノックの音がした。


 「お連れしました」


 これはすぐ側から聞こえた。多分俺を担いでいるマッチョメンの声だ。


 「お入りなさい」


 これは女性の声だった。少しこもっている。会話から察するに、ドアの向こう側にいるのだろう。

 ドアの開く音がした。

 直後、俺は床に降ろされ、寝かされた。

 ドアの閉まる音。続いて足音。足音は徐々に遠ざかってゆく。やがて聞こえなくなった。


 静かになった。

 袋詰にされ、視界と四肢の自由を奪われた俺にとって、音だけが唯一周囲の状況を下がる手がかりだが、それすらなくなると不安になってくる。


 「コーイチ様、大丈夫でしょうか?」


 さっきの女性の声だった。

 正直、なんと答えていいかわからない。正直に言えば全く大丈夫じゃないけど、今俺が置かれている立場がよくわからないので、それを正直に言っていいのかもわからない。


 「えっ、あ、はぁ……」


 と、かなり曖昧に相槌じみたことを言うしかない。


 「すぐに解いて差し上げます」


 解かれるのは良いが、それは縄だけにしてもらいたい。何故なら今俺は全裸だから。衆目に全裸を晒したくはない。


 「それはありがたいです。ですがそれは縄――」


 「『鎌鼬シャープ・ウィンド!』」


 俺の声は途中で、女性の詠唱によってかき消されてしまった。

 涼やかな何かが俺の身の周りを駆け巡った。

 直後、パッと花が散るように、縄も袋もみじん切りになって、端切れが空中を舞った。


 突然、視界が開けた。

 その先に女性がいた。綺麗な女性だ。広い部屋の中央に据えられた大きなベッドに腰掛けている。歳は俺より少し上だろうか。ちょっぴり大人に見える。

 その女性と目が合った。

 合うなり、女性は顔を赤くして顔をそらした。

 当然の反応だろう。いきなり男の全裸を見せられたら、誰だってそうなる。

 でも、一番恥ずかしいのは多分俺だ。

 裸を見るより、見せるつもりもない裸を見られる方が断然恥ずかしいに決まっている。

読んでくれてありがとうございます。

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