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俺、『俺』がトラックに轢かれ、グチャグチャのグログロになる一部始終を見せつけられ、ゲロマーライオンになり、ゲロナイアガラフォールする。こんなヒドいのを見せつける女神様がちょっぴり怖くなる今日このごろ。

異世界転移ものなのに中々異世界に行かず、女神様とイチャイチャする主人公。

 「あれ、あんまり嬉しそうじゃありませんね?」


 俺の反応が思っていたのと違ったらしく、女神様は小首を(かし)げた。


 俺は胸ばっかり見ちゃいけないと思って顔ごと目を逸らしただけなのだが……。

 でもまぁ、よくよく女神様の言ったことを考えてみても、『チャンスを与える』ということがどういう意味なのかわからない。

 チャンスという言葉は、普通悪い意味には使わないから、きっと良いことなんだろうけど、そのチャンスの内容がわからなければ、嬉しがりようもない。


 「嬉しいとか、嬉しくないとかじゃなくて、そもそも『チャンスを与える』ってのが、一体どういうことなのかわからなくて……」


 「あ、そうですね。ちょっと言葉足らずでしたね」


 てへへ、と舌を出し、その顔に相応しいカワイイ苦笑いを浮かべた。

 その辺の女の子がやろうものならあざとすぎるアクションだが、女神様に限っては全くあざとさを感じなかった。

 カワイイ人は何をしたってカワイイし、何をしたって許されるのかもしれない。

 実際思わずテレちゃったしね。


 「私、女神ウアイラがあなたを今回だけ特別に、死の運命から救ってあげます!」


 何やら誇らしそうに、腰に手を当て、フンスと鼻息を荒げ、大きな胸を目一杯張って、ドヤ顔で言った。

 おっぱいがまた揺れた。

 女神様は何をしてもおっぱいが揺れるらしい。

 見てて飽きないぜ、全く。


 そして、俺の名推理は当たっていた。やっぱり俺は死んでいたらしい。

 一般的、平均的、常識的な考えだと、死は何より怖いことだから、それはありがたい話かもしれない。


 だが、断る。


 「あの~、申し訳ないんですが、俺は、その、別にいいです。死の運命とやらから救っていただかなくても」


 これも予想外だったのだろう、女神様は目をまん丸くして俺を見た。


 「嘘ッ!? えっ!? なんで!!??」


 「俺って基本的に不幸なんですよ。大事な日に限って病気とか怪我するし、それでなくても、今日みたいな特別でも何でもない日なのに、目覚まし時計は二つとも壊れるし、それに死んじゃったし。交通事故で死ぬなんて、よっぽどの不運でしょ? 俺、死を受け入れます。不運だったと諦めます。てゆーか、生き返って不幸な人生を過ごして、また事故で死んだりしたら、たまったもんじゃありませんから」


 「なるほどぉ。そういうことでしたか」


 女神様は手をポンと叩いた。納得してくれたらしい。


 「多加賀幸一様、あなたは少し思い違いをしています。あなたはまだ死んでいないのです」


 「えっ」


 「死者を生き返らせるなんて、一言も言ってませんよ。私はあなたを死の運命から救うといったのです。あなたが事故に遭う直前、私が時間を止めました。ギリギリ間に合いましたね!」


 女神様がニッコリ笑う。


 「多加賀幸一様が、死の運命を受け入れると言うなら、それも仕方のないことです。失礼ですが、あなたはそれがどういうことか、正確に理解していますか?」


 突然、女神様は真剣な顔つきになった。


 「え……?」


 今までとは違う、愛嬌の一切ない真顔に、俺は息を呑んだ。

 カワイイ顔をしているだけに、それはかなりの迫力を伴っていた。


 「『死の運命を受け入れる』ということがどういうことか、今お見せしましょう」


 女神様が手を天高くかざした。指先にほのかに光が灯った。すると、


 「うわっ!? わ、わわわ、わッ!?」


 俺の身体が浮き上がり始めた。『地に足付かない』って表現があるけれど、本当に地に足が付かなくなるとマジパニックだ。

 俺はまるで溺れるように、空中で手足をバタバタさせた。


 「落ち着いて下さい。私の力です」


 女神様が言った。よく見れば女神様も浮いている。俺と女神様は高度五、六メートルほど上昇し、そこで止まった。


 「あの、女神様、一体何を……」

 「下を御覧ください」


 女神様は俺の真下を指差す。俺はその先を見る。


 「あっ……!」


 下には、『俺』がいた。トラックに轢かれる直前の『俺』がそこにいた。


 「こ、これはどういう……」

 「では、ご照覧(しょうらん)あれ!」


 俺の言葉を遮り、女神様が言った。

 高く掲げた指をパチンと鳴らした。

 すると、下にいる『俺』がトラックに轢かれた。


 バキ、ドカ、グシャ。


 『俺』の身体は、鳴ってはならない音が鳴り、曲がってはならない方向に関節が曲がり、出ちゃいけないものが、おびただしくはみ出し、飛び出し、流れ出す。

 もうグッチャグチャ。

 ミンチよりひでーぜ……。


 「うぷっ、う、うえええええええ……」


 そのあまりの凄惨さに、俺はゲロをぶちまけてしまった。

 高高度から落下するゲロは陽光を浴び、キラキラ輝き、虹を作った。

 ゲロマーライオン。

 ゲロナイアガラフォール。


 「いかがですか?」


 女神様がニコニコ言う。


 「これは、あくまでもシミュレーションです。ですが、百パーセント、完璧なシミュレーションです。これがあなたの死の運命なのです。あなたが先程言ったように、死の運命を受け入れると言うことは、今からこれを体験することになりますが……」


 「女神様ッ! この哀れな子羊を、あなた様のお力でどうかお救いくださいッ!!!」


  あんなグロ見せられた後で、『次はお前がああなる番だ』と言われて、はい、わかりましたと受け入れられるはずがない。

 俺は女神様の言葉を遮り、空中で土下座した。

 さっきまで空中でジタバタしてたのが嘘のように、きれいに土下座できた。

 人間必死になれば、意外と何でも出来たりするもんだ。


 「はい! 喜んでお救いします! お顔をお上げ下さい」


 ふわりと女神様が俺に近づき、俺の手を取った。俺はがっしりその手を両手で握り返した。


 「あ、ありがとうございます!」


 俺は感涙(かんるい)にむせんだ。

 いや、ほんと、生きてるって素晴らしい。

 今日ほど、生を実感した日はないし、これから先もないだろう。

 あんな痛そうな死に方だけはゴメンだ。どうせ死ぬにしても、もっと穏当に死にたいものだ

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