まさかの決着。
体力はとっくに限界を迎えている。もう、どう足掻いてもボンボンをブチのめすことはできないだろう。
それでも、やるべきことをやるのが男ってヤツだ。
無理でも良い、失敗しても良い、ダメなのは諦めてしまうことだ。
男なら、死ぬ時は『前のめり』で死にたいもんだ。
なんて、俺らしくないことを思いながら、俺は疲れ切った身体で、ボンボンに向かってゆっくりと近づく。
これも剣の意志だろう。
こんな熱血少年漫画みたいなの、今時流行らない。俺はそんなガラじゃない。剣が、俺を熱血少年漫画のように駆り立てる。
一歩一歩、ゆっくり近づき、俺は壇を下りた。たかが壇をちょいと跳び降りるのにも一苦労だった。
ここで体力が尽きた。
俺は壇に腰を下ろした。
もう立っていられなかった。
壇と邸の間、二十メートルもない距離に俺とボンボンは対峙する。
もうこれ以上は詰められない、もう一歩も動けない。
せめて五分、いや、三分でも休めればボンボンをブチのめせるのだが……。
もちろん、ボンボンは待ってくれるほど優しくもなければ、それほど甘くもない。
ボンボンの周りで、どんどん『つらら』が生成されてゆく。
いよいよ、終わりかな……?
と、思いつつも立ち上がる。
迎撃の準備をする。
男にはダメだとわかっていても、戦わなければならない時がある。
こっちに来てから、やたらとそんな機会に恵まれすぎていて、正直しんどい。
いつ『つらら』が撃ち出されてもいいように、黒い炎の剣を構える。
握る手に力が入らない。プルプルと小刻みに震える。
握力もヌけている上に、呼吸も整わない。
これじゃ、上手く迎撃できないだろうなぁ。
後は天運に任せるしかない。
ボンボンの周りを浮遊する『つらら』の数が二十本にもなった。
今の俺には荷が重すぎる数だ。
その内、三本の切っ先がこっちを向いた。
なるほど、一斉に発射するんじゃなくて、順次発射か。こりゃやられたな。
一回三発として七回か。
正直無理だ。
俺に七回も迎撃する体力は残っていない。
詰んだな。
死は確実。不確実なのは、何本目で死ぬかってことだけだな。
雨が突然強くなった。
スコールのような強さ。
その時だった。雨が強くなるに乗じて、一回目の『つらら』が発射された。
やはり三本。
身体が反応するも、かなり鈍い。身体がよろける。
それでもなんとか『つらら』を打ち払う。
一回目の迎撃はなんとか成功したが、もはや俺の肉体は完全にグロッキーだ。
喉の奥から胃の内容物が飛び出してきそうだし、足も震えている。息はより荒い。
ヤツは俺の様子を見て、好機と判断したのか、間髪入れずに二回目を発射した。
それもなんとか打ち払う。
が、ぬかるみに足をとられ、盛大に転んでしまった。
全身ビショビショのグショグショのドロドロ。もう最悪だ。
三回目が発射された。
ビショビショだろうが、グショグショだろうが、ドロドロだろうが寝ている暇はない。
飛び起きて迎撃する。
なんとか起き上がれたが、もう足にも手にも力が入らない。手足の感覚が希薄だ。
いよいよ無理だ。
運が尽きたか……。
心は半ば諦めている。
それでも身体は諦めない。
無理をおして、『つらら』を打ち払わんと剣を振り下ろした。
と、その時、
ツルッ、
と手が滑った。
手を離れ、ぶっ飛んでゆく剣。
手が限界を超えてしまった。いや、主には雨のせいだ。
俺は雨のせいで、唯一の武器を失ってしまった。
俺はうつ伏せにぶっ倒れた。
足も限界を超えてしまった。
もう立ち上がれない。
スっぽ抜けた剣は、ボンボンの方へと飛んでゆく。
運良く剣がボンボンに当たる、なんて見込みは全くない。剣は空高く上がりすぎた。
地に伏せながら、剣の行先をただ見守る。
剣が無くちゃ、体力があっても『つらら』を防ぐことはできない。
終わった。ゲームセット。試合終了。
クルクル回転し、放物線を描く剣をただ見守るしかない。
九回裏ツーアウト、夏の大会最後の打席で高く打ち上げた内野フライを見送る打者の高校球児と、多分同じ心境だ。
思った通り、剣はボンボンの遥か頭上を通り過ぎた。
ニヤリと笑うボンボン。勝ち誇った顔だ。
直後、工事中の邸の足場の支柱に、黒い炎の剣がぶっ刺さった。
刺さったところに火が点いたかと思うと、まるで油でも染み込ませていたかのように、一瞬にして火が足場全体に燃え広がった。
そして次の瞬間、
轟音を立てて足場が崩壊した。
音から異常を察し、ボンボンは背後を振り返った。
それとほとんど同時に、燃え崩れた足場が容赦なく、ボンボンの頭上に降り注いだ。
一瞬にしてボンボンの姿が、燃えた足場に埋もれて見えなくなった。
俺はそれを呆然と、ただ傍観するしかできなかった。
これは、運が良いのか……?
多分運が良いんだろう。そうとしか考えられない。
疲れと雨で手がスベリ、スッ飛んでった黒い炎の剣がボンボンの背後の足場に刺さり崩壊させ、ボンボンを倒す、なんてこと狙ってできるはずがない。そもそも狙ってやってない。
これは偶然だ。偶然うまくいったということは、運が俺の味方をしてくれたということだ。
だが、俺はちょっぴり自分の幸運が恐ろしくなった。
何も、ボンボンがあんな目に遭うことはないと思うし、俺自身、ヤツを殺したいとまでは思っていなかった。
ボンボンを一発小突き、無事に家に帰れたらそれで充分だった。
なのに、図らずもヤツはエグい死に方をしてしまった。
それも天運というやつなのかもしれないが、あまりにも惨たらしい。
さて、一難去ったが、まだまだ難から逃れたとは言い難い。
何故なら周りを見ると、ボンボンの配下の男たちが、俺を隙間なく取り囲んでいるからだ。
男たちは麻袋のようなものと縄を取り出し、俺を簀巻にした。
俺は一切抵抗しない。というよりできない。
そんな体力一ミリたりとも残っていない。
簀巻にされた俺は男たちに担がれ運ばれてゆく。
体力も剣も失った俺が唯一頼りにできるのは、女神様から貰ったチート能力『幸運系』しかない。
さて、俺の幸運は、この状況をどうやって切り抜けさせてくれるのだろう?
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