俺をあんまり怒らせると、俺の剣が火を噴くぜッ! って本当に火ィ噴いてどうするッ!? やっちまったぜ、領主のボンボンと大喧嘩!
トントンとステージの方から足音が聞こえてきた。
足音が近づいてくる。数メートル先で、足音が止まった。
「お前がコーイチか?」
壇上から声を掛けられた。
威圧的な声音だ。
だけど、想像していたよりかなり若々しい、いや、若々しいというより、幼い声だった。子供の声って程じゃないが、大人とも言えない。青春期の男の声。ひょっとしたら、歳は俺とそう変わらないかもしれない。
「はい」
ちょっぴり声が濁ってしまった。
喉に違和感があった。昨日の酒のせいか、雨に打たれすぎたせいか、喉の調子が良くない。
風邪じゃなければいいけど……。
そんなことを思いながら、領主様の二の句を待った。
が、沈黙。
庭を静寂が包み込んだ。
雨音だけが耳につく。
まるで俺がとんでもない大スベリをカマしてしまったかのように、寒々しい長い間があった。
やらかしたつもりは毛頭ないが、ひょっとしたら知らず知らずのうちにやらかしてしまっていたのかもしれない。
なにせ、俺は『異世界人』だ。俺が思う常識と、こっちの世界の常識が違っている可能性は大いにある。たった一言の受け答えをミスってしまったのかもしれない。
『ミス』が頭をよぎると、にわかに緊張が増してくる。
「面を上げろ」
領主様が言った。言葉は静寂を払った。
相変わらず威圧的な口調だ。
俺は顔を上げた。
「余が、スプロケット領主バモス・ケーディックの嫡男、アコード・ケーディックである」
そう高らかに名乗る男は思った通り、俺とそう歳が変わらないだろう青少年だった。
シルクのように真っ白なシャツ。その上に金糸で飾り縫いされた濃緑色のベストを羽織り、さらにその上から真っ黒のケープを羽織っている。ややぴっちりめの白いパンツの裾は、膝下まである焦げ茶のブーツに入れられている。
身長は俺よりやや高いくらいか。
端正な顔つきだ。一言に言えばイケメン。鼻筋も顎のラインもシャープだ。青い目はパッチリ二重。やや厚ぼったい唇は女性の目を引くこと間違いない。肩まで伸びたウェーブのかかった髪は青白い色をしている。
こっちの世界でしかお目にかかれない髪色だが、もう驚くようなことでもない。こっちに来て一ヶ月以上経つ。こんな髪色は、こっではそこまで珍しいものでもない。
イケメンは俺にとって目の毒だ。別に嫉妬とかそんなんじゃないが、あんまり見ていて気分の良いものでもない。別に嫉妬とかじゃないけどね。なんとなくね。
俺はてっきり、こいつが領主なのかと思ったけど、なんだ領主の子供か。なるほど若いわけだ。
つーか、俺は領主にお呼ばれしたって聞いて来たのに、なんでその子供が出てくるんだ? 領主は一体どこにいったんだ?
「ふぅん……」
領主の子供が、ジッとこっちを見る。
嫌な目だ。まるで人を品定めするような感じ。
「聞いていたより、つまらない面だな」
領主の子供が言った。
「魔物の群れを追い払った英雄だと聞いていたが、何のことはない、ただの取るに足らない平民ではないか。凡俗も凡俗。気品の欠片もない」
ヤツは露骨に嘲笑した。
ただでさえ雨に打たれて気分も良くないのに、呼びつけられ、出向いた上に嘲られ、俺の怒りのボルテージはグングン急上昇。一気に限界値付近に達した。
確かに、俺はただの平民の取るに足らない凡俗だ。気品なんて言葉とも無縁だ。
だが、だからと言ってそれを直接面と向かって言われて、ムカつかないはずがない。
何なんだこいつは? 俺を嘲るためにわざわざ呼んだのか? だとしたら悪趣味の性悪のクソッタレボンボン野郎だ。
もう褒美なんていらない。さっさと帰りたい。一秒でも早く、こんなクソッタレと同じ場所にいたくない。
「お前、火を吹く剣を持っているそうだな? ちょっと貸して見せろ」
このクソッタレはものの頼み方を知らないらしい。
ムカつくが、ここはおとなしく従う。しゃくだが、そうするしかない。
何せここはヤツのテリトリー。ヤツに付き従う剣を持った男が何人もそこらにいる。喧嘩して勝てる状況じゃない。
俺は懐に入れておいた、錆びた短剣を取り出した。
壇上に座っていた男の一人が立ち上がり、壇から下り、俺の剣をひったくるように取って行き、ヤツに渡した。
「なんだこれは。ゴミではないか。もうよい。返す」
ヤツはほんの少し手に取っただけで、すぐに短剣を放り捨てた。
俺の目の前に短剣が転がった。
俺はブチギレた。もう我慢ならない。
が、そこをグッと堪えて我慢する。
どうしたって勝てる喧嘩じゃない。それがわかっているからこそ、ヤツはこんな失礼極まりない暴挙に出ているんだろう。
ここは我慢だ。耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶんだ。
俺はヤツを思いっきり睨みつけた。喧嘩をする気はないが、怒りのちょっとした発露は抑えられない。まぁ、これぐらいなら喧嘩にもならないだろう。
俺はヤツを睨みつけたまま、転がった短剣を拾った。
その時、突然周囲がざわめいた。
俺たちを囲む兵も、壇上の男たちも一斉に剣を抜いた。
あまりに突然のことに、俺は何が起こったのか全くわからない。
何か大変なことでも起こったのかと、俺は辺りをキョロキョロと見回した。
剣を持つ全員が抜剣した以外に、特に変わったところはない。
「コーイチッ……!」
ジュリエッタの悲鳴じみた叫び声が聞こえた。
「コーイチ! ヤメなさい!」
ジュリエッタが再び叫んだ。
ヤメろと言われても、何をヤメればいいのやら、全くわからない。
「それが『火剣』か」
クソッタレボンボンの言葉で、俺はようやく気が付いた。
手に持った短剣から、黒い炎がほとばしっている。
それを見て、俺は目ン玉が飛び出しそうなほど驚いた。
火を受けてないのに、どうして? 何故に? ホワイ?
俺、超パニック状態。
「皆の者、下がれ!」
ボンボンの一喝に、剣を持った男たちは一斉に数メートル後ろに下った。
「余に向かって刃を向けるとは不届き千万! 余、自らの手で成敗してくれる!」
俺は喧嘩をする気なんて全然ないのに、もうアッチはやる気まんまんだ。
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