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三人の奴隷に囲まれてあんなことやこんなことを!? 三人に勝てるわけ無いだろ! コーイチの扱いはまるでおままごとのお人形!!

サブタイトル詐欺。

 「それじゃ良くないわねぇ」


 着替えて出てきた俺を見て、ジュリエッタが言った。

 一応、俺なりに考えて一張羅(いっちょうら)を着たつもりなのだけど、即ダメ出し。

 貴族様から見れば、庶民の一張羅なんてボロの古着扱いなのだろう。


 「領主様に接見するのに、それじゃちょっと問題だわ。私のトコで直しましょう」


 俺はジュリエッタの勧めに従うことにした。

 ジュリエッタが用意した、ハインライン家の馬車に乗り込み、彼女の屋敷に向かった。

 道中、気分が悪くなってしまった。

 馬車酔いだ。


 普段乗り物酔いなんてしない俺だけど、昨日の酒が良くなかったのだろう。

 だが、ジュリエッタは用意の良いことに、酔い止めの薬を用意してくれていた。

 大きさはBB弾くらいの真っ白の丸薬だ。

 それを噛まずに、水でさらっと飲み込む。

 多少、楽にはなるが、完全には良くならず、俺はハインライン邸に着くまで、終始黙っていた。

 ハインライン邸に着くやいなや、俺は邸の一室に通され、そこで三人の奴隷に囲まれた。

 奴隷は全員女の子で、歳は多分俺とそう変わらない。一人はあの時ジュリエッタにいじめられていたコだった。


 俺は彼女らにされるがままだった。

 と、言ってみればハーレム気分が出るが、実際はそんな艶めかしいことじゃない。

 俺はあっという間に服を脱がされた。と、ここまでは色っぽい展開が期待できそうだ。

 だが、次にタオルで身体を拭かれ、髪をすかれセットされ、薄化粧を施され、香水を振りかけられ、仕上げに服を着せられた。

 その扱いはまるでお人形さんだ。赤ちゃんプレイが好きな人なら、こういうのも楽しめるのだろうが、俺の歳でそれに目覚めるのは早すぎる。ただひたすらされるがままになるのは変な気持ちだった。決して喜ばしくはない。


 「男前になったじゃない」


 と、ジュリエッタは俺の出来栄えを称賛してくれた。

 が、自分では全くそうは思わない。

 一応完成体を姿見で確認させられたのだが、馬子にも衣装というか『無理矢理作られた感』が凄く、違和感だらけだった。

 黒を貴重としたスーツ姿で、袖やボタンや襟に金の飾り縫いが派手派手しい。襟元に花を(かたど)った銀のブローチ。首には薄く短く、白い光沢を放つマフラーを巻かれた。これが正直暑い。靴も変えられて革のブーツ。

 てっぺんからつま先まで魔改造が施されたわけだ。『劇的ビフォーアフター』ってヤツだ。


 慣れないブーツは歩きにくく、服はパリッとしすぎていて動きにくい。

 油の切れたロボットのような動きで馬車に乗り込み、ハインライン邸を後にした。


 「どれくらいかかるんだ?」


 俺が聞くと、窓の外を見ていたジュリエッタはこっちを向いた。目が合った。俺は不意に昨日のキス未遂事件を思い出し、サッと目を逸らした。

 今はあの時のことを思い出すべきじゃない。

 密室、狭い馬車の中で密着、俺は健全な思春期青少年。変な気を起こさないとも限らない。起こしてしまえば辛いのは俺だ。美女とを隣に悶々と過ごすのは身体にも精神的にも良くない。


 「そうね、一時間と少しくらいかしら」


 「そっか」


 言って、俺はジュリエッタから顔をそらし、窓の外を見た。


 「ねぇ、あのコとはどういう關係なの?」


 「あのコ?」


 俺は再びジュリエッタの方へと向いた。


 「あなたの部屋にいるあのコよ」


 「ああ、エランのことか。同居人だよ。色々と俺を助けてくれてる」


 「あのコのこと、好きなの?」


 「えっ、どういうこと?」


 「あのコに対して恋愛感情を持っているか? ってことよ」


 「まさか! 子供にそんな感情持てないよ」


 「あら、そうなの? じゃあ完全にあのコの片思いってこと?」


 「片思い?」


 「あら、それすら気付いてないのね。あのコ、あなたに惚れてるわよ」


 「エランがそう言ったのか?」


 「いいえ。でもわかるわ。あのコ、私と同じ目をしているもの。あなたを見る目が、私があなたを見る目と同じなの」


 俺はテレて、とっさにジュリエッタから顔をそらし、窓の外へ目を向けた。

 よくあんなことを面と向かって言えるなぁ。大胆不敵なヤツだ。俺には恥ずかしすぎてできない。おかげで、まともに彼女の顔を見れない。


 「幸せな人ね、二人の女性から想われるなんて」


 ジュリエッタの声は、明らかに俺をからかっていた。

 悔しいが分が悪い。大胆な愛情表現にも慣れていないが、色恋関係でからかわれるのも慣れていない。俺はもうテレまくりで、顔面がトマトより真っ赤に紅潮しているから、彼女に面と向かってやり返すことなんかとてもじゃないができそうにない。


 「光栄過ぎて荷が勝ちすぎてる」


 こう言うだけで精一杯。


 「おかしなこと言うのね。愛は決して荷物じゃないわ。愛は互いを支えあうためにあるのよ」


 「塔は苗木を支えられても、苗木は塔を支えられないよ」


 「面白いこと言うのね」


 「君が先に言いだしたんだ」


 何がツボにはまったのか、ジュリエッタはお腹を押さえ、だけど小さな声で笑いだした。


 「ますますあなたのことが好きになったわ」


 ジュリエッタは目に涙を浮かべて言った。


 「気持ちはありがたいけど、でも、俺は君のこと、その、恋愛って意味では好きじゃないよ」


 「それはそうでしょうね」


 ジュリエッタはあっけらかんとして言った。


 「私があなたを好きになる理由があっても、あなたが私を好きになる理由は今のところないものね。でも、きっと一緒に過ごすうち、あなたは私のことを好きになるわ」


 「すごい自信だなぁ」


 「自信があるというよりも確信があるの」


 「どこにそんな確信があるんだ」


 「さあ?」


 「さあ? ってあんた……」


 「そうでも想わないと、恋愛なんてできないわよ」


 その言葉に、何だか分からないが凄く納得してしまった。理解できないのに、物凄い説得力がある気がした。


 「わかるような気がするよ」


 「いつか私がわからせてあげるわ」


 「楽しみにしているよ」


 そこで会話が途切れた。


 窓に光の加減で、時折ジュリエッタの姿が映った。彼女は俺とは反対側の窓の外をぼんやり眺めていた。

 まさに、深窓の令嬢といった雰囲気だった。

 ジュリエッタは、俺が彼女に惚れる理由は今のところないと言ったが、俺自身はそうは思わなかった。

 外見だけでも、十分好意に値する。

 ただ、出会い方が恋愛に相応しくなかっただけだ。

 もっとロマンティックな出会い方だったら、俺がジュリエッタを好きになってもおかしくない。

 けどその場合は、ジュリエッタが俺に惚れる理由がなくなってしまうかもしれないけど。


 遠くから黒く分厚い雲がやってきて、瞬く間に、一片の隙間なく空を覆った。

 やがて雨が降り出した。

 霧雨だ。

 小さな雨粒がいくつも窓に張り付いた。

 霧雨の中を馬車は進む。

読んでくれてありがとう!

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