領主様からお呼ばれしたのでご褒美もらいに行ってきます。
ジュリエッタの姿を見ると、また昨日のことが頭のなかで生々しく再生される。再生されるだけじゃなく、そこからイケナイ妄想へと勝手に発展してゆく。
イカンイカン! こんなことじゃダメだ。
俺は頭を振り、頭の中の妄想を振り払った。
「おはよう、コーイチ。体調はどうかしら?」
ジュリエッタが俺に気付き、軽く手を振り、口元に小さな笑みを浮かべて言った。
ジュリエッタの言葉に、エランはこっちを振り返った。何やら悲しそうな、申し訳無さそうな顔をしている。
淫らな妄想が頭の中を駆け巡った直後に、本人を直視することは難しい。つーか恥ずかしい。
俺は目を伏せつつ、ジュリエッタに手を振り返した。
「おはよう。言い争っているように聞こえたんだけど、どうかしたのか?」
「心配しなくていいわ。言い争うなんてほどのことじゃないから」
そうは言うものの、エランの顔は沈んでいる。
とりあえず、エランの言い分を聞くべきだろう。
「ちょっとそこで待っててくれないか?」
俺はジュリエッタにそう告げると、ジュリエッタは頷いた。
一旦玄関ドアを閉めた。
俺はエランの手を引いて部屋に戻った。
「ジュリエッタはああ言ってたけど、一体どうしたんだ?」
俺は極力、優しい声音を作って言った。
エランは一瞬躊躇う仕草を見せたが、すぐに口を開いた。
「ジュリエッタ様がお見えになられた時、コーイチ様はまだお休みになられてましたから、昨日のこともありましたから、コーイチ様にはまだまだ休んでいただいたほうが良いかと思いまして、また出直してもらえるようにお願いしたんです。ですが、ジュリエッタ様は強引で、聞き入れてくれなくて……。私、出しゃばり過ぎたでしょうか……?」
「いいや、全然。むしろありがたいよ!」
本心から思った。
まだ酔いも残ってるし、正直まだまだ休み足りない。エランの気遣いは、俺にとって凄くありがたいことだ。
「しかしあのお嬢様にも困ったもんだな。こんな朝早くからやってくるなんて」
言って、俺はエランに笑いかけた。
エランは苦笑を浮かべた。苦笑はあまり子供には似つかわしくない。大人びているというよりは、老成し過ぎている感がある。
エランとジュリエッタ、これじゃどっちが歳上なのかわからないな。
「ありがとう、エラン。後は俺に任せろ」
俺は玄関に向かった。
玄関のドアを開けると、ジュリエッタがつまらなさそうな顔をし、腕を組み、つま先で何度も床を叩いていた。
俺は待たせすぎたらしい。
ジュリエッタは俺の顔を見るなり、微笑を浮かべた。
「よう、で、今日は何の用だ? もう決闘はしないぞ?」
「『火剣の勇者』に挑むなんて馬鹿なことするわけないじゃない。自殺願望なんて無いわ」
火剣のネタはもう上がっているから、今度こそ俺が負けそうな気がするが、そこは黙っていよう。自己申告して、『勇者』の格を自ら落とす必要もないだろう。それに、『勇者』と呼ばれて悪い気分はしない。
「『火剣の勇者』なんて大げさだな」
一応謙遜する。いや、半分は事実だ。たまたま上手くいっただけで、『勇者』と呼ばれるほどの力もないんだから。
「謙遜することないわ。あなたはもう『火剣の勇者』で通っているんだから。コーイチって名前より広く知れ渡っているんだから」
「えぇ……」
それはちょっぴり複雑な気分だ。
『勇者』は悪い気はしないが、皆に知られるのはちょっと恥ずかしい気もするし、そんなに目立ちたくない。『勇者』はあくまでも虚像に過ぎないんだから。
「そこで、領主様があなたにお会いくださるそうよ。さぁ、さっさと着替えなさい」
「はあ? いやいや、ちょっと待ってくれ。領主様って何だ? 多分偉い人だろ? いいよ、そんなの。俺、そういうの慣れてないし」
正直なところ、面倒臭いってのもある。
「領主様直々にお呼びがかかるなんて、こんな誉れ滅多にあることじゃないのよ! それを断るなんてとんでもない!」
ジュリエッタの鼻息が荒い。
こっちの世界では、領主様なる人物に会うことは、よっぽど興奮できる事柄らしい。ジュリエッタが、『東北一のお笑いコンビの仕事で人を殺してそうな方』バリに何でも興奮しやすい体質ってわけでもないだろうし。
自分のコトでもないのに、それだけ興奮されると、こっちとしても興味が湧かざるを得ない。
「いやぁ、そうは言っても、俺にも生活があるからさ。仕事ちょっと休んじゃったし、稼がないと餓死しちゃうから」
「一日ぐらいどうとでもなるでしょう? それに領主様は、あなたが多くの人を救ったことを大変感謝しているそうよ。ひょっとしたら褒美が出るかもしれないわ」
そうなると話が変わってくる。
褒美次第では、もう一日ぐらい仕事を休んでもいいかもしれない。
「褒美って、例えば何が出るかな?」
「それはわからないわ、行ってみないと。でも、何かしらの褒美がきっと出るわ。伊達に領主じゃないもの。きっと良いものを頂けるはずよ」
大きな屋敷を持ち、地元では名が知られているらしいジュリエッタが様付けするくらいだから、かなりの富豪ということは想像に難くない。
これは一つ、出向いてみるべきかな。
「そうだなぁ、せっかく領主様からお呼びがかかってるんだから、行かないのは失礼かもしれないな」
あえて、そこまで乗り気でない風を装う。
褒美に釣られる卑しいヤツ、なんて思われるのもイヤだし。
「ええ、是非行くべきよ。私も付いていってあげるから、何も心配はいらないわ」
「君がいるなら心強いな。じゃあよろしく頼むよ」
「決まりね! それじゃ私は表で待ってるから」
言って、ジュリエッタは踵を返し、アパートの廊下を渡っていった。
玄関のドアを閉めると、何だか突然溜め息が出た。
どうやら、まだまだ疲れが抜けきっていないらしい。
読んでくれてありがとう!




