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コーイチ、人生初の宿酔の朝は頭が痛むの巻。

 目が覚めると自室のベッドの上にいた。

 隣のベッドではエランが小さな寝息を立てて眠っている。

 カーテンの隙間からやわらかな日差しがちょっぴり差し込んでいる。

 ということは朝か。


 起き上がろうとした時、頭が痛んだ。頭の芯がズキズキと疼いた。

 なんだこの頭痛は? 風邪か? いや、それとは違う気がする。痛いのは頭だけだし、鼻、喉に違和感もなく、熱もなさそうだ。

 そういえば俺、どうやって家に帰ってきたんだ?

 思い出せない。


 俺は上体を起こし、痛む頭を抱え、記憶を掘り起こしてみる。

 そうだ、昨日はたしか、俺の葬式をやってたんだ。いつの間にか棺桶に入ってたんだ。えーっとそれから……、そうそう、火を点けられたんだ。んで、俺は火事場の馬鹿力を発揮して、棺桶から見事脱出。で、そこからは葬式じゃなくて宴会になったんだ。そうか、この頭痛は酒のせいか。これが世に聞こえる宿酔(ふつかよ)いってやつか。

 最悪の気分だ。ダルすぎる。飲んだ直後以上に、今のほうがキツイ。

 酒の良さが全くわからない。味はともかく、気分が悪くなるだけじゃないか。金輪際、酒は飲みたくない。


 で、その後は飲みすぎてトイレに立って、エランとジュリエッタに付き添ってもらって、用を足して、三人でベンチに座ってそれから……、そうだ、『キス未遂事件』だ……!

 思い出すと、頭のなかでその時の映像が生々しく再生される。

 身体のラインが浮き出た漆黒のドレス。そこからスラリと伸びる四肢。黒いヴェールを脱げば白い顔。濡れた瞳。艶やかな唇。熱っぽい吐息。

 それらが鮮明に思い出されるくせに、イマイチ現実感がなかった。


 本当にそんなことありえるのだろうか? あんな美人が、俺を好きだと言って、俺にキスを求めるだろうか? そんな美味しすぎる話あるだろうか? 『こじらせすぎた思春期真っ盛り童貞少年』の『淫らで哀れな妄想』なんじゃないだろうか? 真っ昼間の酒酔いが見せた、儚く卑猥な夢なんじゃないだろうか?

 いや、妄想なら自己中心的かつ、過激なエロティック展開になって良かったはずだ。妄想の中なから、相手のことなんか考えずに、欲望のままに蹂躙(じゅうりん)したって問題ない。現実じゃないんだから。覚めた時に多少の罪悪感はあるかもしれないが。


 しかし、そうはならなかった。昨夜の俺は、キスどころか、その相手を前にしてゲロをぶちまけたのだ。

 あれが夢なら、ただの悪夢だ。お預けをくらっただけに、一入(ひとしお)キツイ悪夢だ。

 つまり昨夜のアレは、悪夢のような現実だった、と考えるのが正解だろう。

 エランとジュリエッタに情けない姿を晒すハメになったが、まぁ、それは仕方ないさ。それよりも、勢いに流されずに、キスしなかった昨日の俺を褒めたてやりたいくらいだ。ナイス! 俺! よくやった!

 と、自分で自分を褒めてみたところで気分が良くなるわけでもなかった。むしろ虚しい。何の慰みにもなりやしない。


 記憶はゲロを吐いたところで途切れていた。

 結局、どうやってこの部屋に帰ってきたのか思い出せない。

 まぁ、無理に思い出すようなことでもないか。それよりも頭が痛いし。もう一眠りするか。まだ朝が早いエランは起きていない。ということは、二度寝する時間が多少はあるということだ。

 俺はベッドに潜り込んだ。すると、宿酔のせいか、すぐに眠気がやってきて、ものの数分で眠りに落ちた。


……………………………


 遠くから誰かが話し声が聞こえて、俺は眠りから覚めた。

 何やら騒がしい。

 俺は寝ぼけ眼こすりつつ、ゆっくりと上体を起こした。

 まだ少し頭が痛いが、さっきより幾分マシだ。

 話し声は玄関からだった。女の声だ。一人はエラン。何やら言い争っているようにも聞こえる。

 エランが誰かと言い争うなんて珍しい。というか、今まで一度もそんな場面を見たことがなかった。エランは普段から温厚で、怒ったりすることは滅多にない。


 一体どうしたんだろう?


 俺は心配になり、とりあえず玄関に行ってみようと、素早くベッドを下りた。

 ズキッ、と頭が痛んだ。悪い酒がまだ頭に残っているらしい。身体もまだ重い。

 頭に手を当て、重い足を引きずるように、玄関へと向かった。

 玄関には二人の少女がいた。


 一人はエラン。

 エランはエプロン姿で、俺に背を向けて立っている。

 もう一人はジュリエッタ。

 ジュリエッタは昨日の喪服とは打って変わって白いモーニングドレスを着ていた。彼女は少し苛立ちを顔に浮かべ、エランを見つめていた。

 二人は玄関ドアと外の境界を隔てて相対していた。

読んでくれてありがとう!

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